ビジネスで成功するためにはどんな工夫が必要か。キッコーマンの元役員でマーケターの三宅宏さんは「顧客のターゲットを絞り、特定顧客の潜在ニーズを考える必要がある。倒産した旅館やホテルの再生を専門とする星野リゾートは、北海道のトマムにあるスキーリゾートホテルの経営を立て直すことに成功した。その背景には“夏場のスキー場”に顧客を集めるある工夫があった」という――。(第2回)

※本稿は、三宅宏『世界はマーケティングでできている』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

幻想的な雲の海 滞在型リゾート施設「星野リゾート トマム」の雲海テラスからの眺望=北海道占冠村(2012年09月22日)
写真=時事通信フォト
幻想的な雲の海 滞在型リゾート施設「星野リゾート トマム」の雲海テラスからの眺望=北海道占冠村(2012年09月22日)

「潜在ニーズ」を掘り起こせればヒットにつながるが…

顧客本人も気づいていない潜在ニーズを掘り起こして、そこから商品化にこぎつけると、他社もすぐには追随できないため、大ヒットにつながる可能性があります。しかし、画期的な商品はその使用シーンや今までにない満足感、ベネフィットが伝わらなければ、単なる一芸商品として埋もれてしまいます。

例えば、近江麻布の行商を300年前に始め、現在は家電メーカーと海外も含め80社の卸もしている小泉成器ですが、ダブルファンドライヤーを発売するまでには気が遠くなるような長い歴史があります。50年前まで理髪店でしか使われていなかったヘアドライヤーの一般家庭用販路を開拓したのも小泉成器です。ドライヤーに求める「すぐに乾く」ニーズを見いだし、業界初のダブルファンを備えた「Monster」を発売し100万本のヒットにこぎつけたのです。

新商品の普及過程を研究した有名な理論があります。スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授(Everett.M.Rogers)のイノベーター理論です。新商品の時間経過の普及過程は、きれいな正規分布を描くとして次の5つに分類しました。

・イノベーター(革新的受容者)2.5%
・アーリーアダプター(初期受容者)13.5%
・アーリーマジョリティ(初期大衆)34%
・レイトマジョリティ(後期大衆)34%
・ラガード(受容遅延者)16%

コンサルタントのジェフリー・ムーア(Geoffre Moore)は、「ハイテク産業の分析からアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には容易に越えられない『キャズム』(大きな溝)がある」ことを示しました(『キャズム ver.2 増補改訂版』ジェフリー・ムーア著/翔泳社)。普及率16%を超えるのは非常に難しいのです。