ヒットした商品や成功したビジネスにはどんな共通点があるか。キッコーマンの元役員でマーケターの三宅宏さんは「マーケティングが大きな要因になっているケースが少なくない。たとえば、男性向けの整髪料を販売していた大塚製薬は、ボディケアに関心がないとされてきた中年男性にターゲットを絞り、スキンケアやニオイ対策の商品を積極的に売り出すことで市場の拡大に成功した」という――。(第1回)

※本稿は、三宅宏『世界はマーケティングでできている』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

クリームを手に出す男性のイメージ
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「顧客の特定」はどうやって進むのか

「顧客の特定」をするための一連のプロセスをざっと見ていきましょう。マーケティングの大前提となる3つのステップの頭文字をとって、「S・T・P」といいます。セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)です。

セグメンテーションはターゲティングとセットになっていることが多く、マーケティング理論の中核を担っています。1つの商品・サービスで全ての顧客をカバーすることは理想ですが、同じようなプロフィールを持っている人でも好みや欲しいものはまちまちです。

(事例)
トップ企業の牙城を崩したゼネラルモーターズ

今から100年前の米国で、一つの商品ラインで市場をつくり出した巨大トップ企業に、セグメンテーション戦略で挑戦し逆転した壮大な物語があります。

米国では、20世紀に入るまで交通手段は鉄道や馬車でした。それまでの自動車は手作りの高級品で、しかも故障が多く金持ちの遊び道具にすぎませんでした。エジソンの会社の技術者だったヘンリー・フォード(Henry Ford)は独立してフォード・モーターを創設し、周囲の人に馬鹿にされながらも自動車のライン生産の夢に取り組みました。そしてついに、1908年に有名なT型フォードを完成させました。

大量生産の確立とともに、「安価で操作が楽な車を大衆に」という信念のもと、10年間で1500万台も売る一大車市場を築き上げました。この信念は揺るがず、色は黒のみ、型はT型フォードのみと徹底しています。ほかの新しい車種はもちろん、たとえ赤の色を売り出したいと言ってもヘンリー・フォードは決して首を縦に振りませんでした。市場を単一ラインだけで創造したのは、まさに理想を実現したといえます。