調査するだけで顧客のニーズを引き出すのは困難
顧客の潜在ニーズを発掘するには、特定顧客のことを知り尽くし、マーケターが引き出しを多くして仮説・検証するのが王道です。しかしそれだけではなく、マーケター自身が顧客を超えるスーパー・カスタマーになりきって潜在意識に気づくという方法もあります。
顧客をいくら調査しても、なかなかヒット商品には結びつかないという悩みが商品開発者にはあります。また、商品寿命も短く従来のように時間をかけて開発するのが難しくなっています。そのような中での、新潮流の理論を紹介します。
1991年、3社が合併してデザインファームIDEOは生まれました。スタンフォード大学教授でもあったデヴィッド・ケリー(David Kelley)、弟のトム・ケリーとティム・ブラウン(Tim Brown)でした。世界一の技術を誇る自転車部品メーカーのシマノの米国進出にあたってもIDEOがデザイン思考で手伝いました。
当初デザイナー、行動科学者、マーケター、技術者がタッグを組むプロジェクトがスタートしました。米国の90%が子どものころ乗っていた自転車に乗らない理由からはじめました。結果、「惰行」というコンセプトでハンドルにブレーキ類が一切なく、複雑な精密ギアの清掃、調節、修理、交換も不要の自転車。しかしパンクに強いタイヤと快適なクッション付きサドルとスピードに応じて自動的にギアが変わる高度な変速技術は搭載。
自転車に乗らなくなって久しい人々に、シンプルで、健全で、楽しい体験がよみがえってきたのです。
「ニーズを需要に変える」ための三つの要素
さらにもう一歩先に進ませました。販売店に対して店舗内の空間デザインを含めた販売戦略まで提案しました。
「デザイン思考」の特徴は商品開発プロセスの高速化にあります。基本は「よい解決策は顧客を中心とした試行錯誤からしか生まれない」という信念です。実行プロセスは次の5つです。
②問題定義
③アイデア出し
④試作
⑤テスト
このサイクルを迅速に回し続けるのです。仮説アイデアが生まれたらすぐにプロトタイプを作って実際にテストすることが肝となります。「デザイン思考」の目的は、未来をデザインすることです。
ニーズを需要に変える飛躍的な発想を生み出すには、三つの要素が必要だと言っています。(『デザイン思考が世界を変える』ティム・ブラウン著/早川書房)
②「観察」……人々のしないことに目を向け、言わないことに耳を傾ける
③「共感」……他人の身になる
無印良品で知られる良品計画の元社長を私の主催する寺子屋塾にスピーカーとしてお呼びして、西武の堤元会長のすごさや良品計画の組織の強さについて伺ったことがあります。「無印良品」の新商品開発はまさに「デザイン思考」の先をいっています。