倒産した旅館の再生事業で成長した星野リゾート

(事例)
倒産した旅館やホテルを再生させて売り上げアップした星野リゾート

高度経済成長期の宿泊市場は、団体客の顕在ニーズが顕著でした。

旅行代理店任せにしていても、次から次に団体客が旅館や観光地のホテルに送り込まれてきたのです。バブルがはじけて、団体客頼みで顧客の呼び込みを旅行代理店任せで大型投資をしていた旅館やホテルは倒産ラッシュとなりました。これは、顧客のニーズ探索を旅館やホテルが全くしていなかったから起きた問題です。

そんな中で、倒産した旅館やホテルの再生を専門としたのが星野リゾートです。星野リゾートは所有をしておらず、経営と運営専門です。そのため、大型投資はなかなかしません。倒産したホテルの前従業員から働きたいと希望があれば、給与水準は下がりますが引き受けます。顧客のターゲットを絞り、特定顧客の潜在ニーズを全員で考えます。星野リゾートについて見てみましょう。

トマムは北海道のほぼ真ん中に位置する4つのタワーホテル、スキー場、ゴルフ場、レストラン、温泉を備える大型リゾート施設でしたが、バブルの崩壊とともに破綻しました。当時、北海道には大規模リゾートが5つあり、その競合の中で埋没したのです。

ヒントになったのは“整備スタッフのつぶやき”

その後、2004年から運営を星野リゾートが任されました。そこでほかの4つの競合との中でトマムの立ち位置を定め、徹底した顧客の特定を行いました。選んだのは子連れのファミリー層です。スキーを楽しんだ経験者は85%。当時スキーをやっている人は25%でした。

かつてスキーの面白さを知っている層が今度は親となり、子どもと一緒に楽しめるのではないかと考えたからです。そこで、小さなジャンプ台や迷路など子どもがスキーで楽しめるアトラクションを集めた「アドベンチャーマウンテン」、夏場のゴルフ場を親と一緒に教わりながら回るための子ども料金無料、ベビーベッドや絵本、おもちゃが詰まった「ベビースイートルーム」などのサービスを完備しました。

これらを導入してから売り上げが1割以上伸びました。しかし、課題はまだありました。夏場の集客です。

夏場のスキー場のイメージ
写真=iStock.com/Bruno Giuliani
※写真はイメージです

夏場の集客のためには何をすればいいのか、顧客の潜在ニーズをあれこれ議論しましたが、どれもパッとしません。そんなとき、ゴンドラやリフトを整備しているスタッフがポツリとつぶやきました。「頂上で夏の早朝に見られる雲海は絶景なんだがなぁ」。この言葉に仲間が反応し、全員で顧客満足を考えて完成したのが「雲海テラス」です。

雲海は毎日見られるわけではなく、発生する時間も早いため、運が良くなければ見ることはできません。頂上で雲海が見られる日は、下は雨か曇りが多いのです。しかし、今では年間13万人以上がゴンドラに乗ってトマムの山頂を訪れる北海道屈指の人気スポットとなっています。

地域のプロフェッショナルだけが知っている絶景が、顧客の心をとらえたのです。