教養を深めるには、どうすればいいのか。直木賞作家の今村翔吾さんは新著『教養としての歴史小説』で、「歴史小説を読むといい。歴史小説のセリフは、現代の最上級の丁寧語で書かれており、美しい日本語を学ぶことができる。また日本全国の地名、姓、名物にも自然と詳しくなれる」という――。

※本稿は、今村翔吾『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

高位の武士の登城風景と推定される古写真
高位の武士の登城風景と推定される古写真。1860年ごろ撮影、撮影者不詳。(画像=放送大学/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

「現代の最上級の丁寧語」で書かれている

今回は、歴史小説を日々のインプット・アウトプットに生かしていく方法について考えていきましょう。

前回(「史実からかけ離れた歴史ドラマはアリなのか…直木賞作家が『司馬史観を批判するのはおかしい』というワケ」)でも言及しているように、歴史小説で使われているセリフは、当時の人が話していた言葉の通りではありません。作家は当時の会話の雰囲気や語彙ごいをできるだけ残しつつ、会話を構成しています。

ですから、歴史小説のセリフは、現代における最上級の丁寧言葉に近いといえます。少し真似をすれば、美しい日本語を話せるようになるということです。

ちなみに私が「美しい日本語で書かれている歴史小説」に挙げたいのは、『くらい海』(藤沢周平著、『新装版 暗殺の年輪』文春文庫に収録)、『もみノ木は残った』(山本周五郎著、 新潮文庫)、『敦煌とんこう』(井上靖著、新潮文庫)といった作品です。この3人はとにかく文章が上手いです。作家の能力をレーダーチャートに表したなら、「文章力」のところは突出するのではないかと思います。

また、語彙を増やす上で歴史小説を読むことは、打ってつけの方法です。何しろプロの私でさえ、いまだに「この言葉、どういう意味?」という言葉を目にする機会がたくさんあります。特に昔の作家の作品を読んでいると、「この人ら、よう言葉知ってはるわ〜」と感心することもしばしばです。