教養を深めるには、どうすればいいのか。直木賞作家の今村翔吾さんは新著『教養としての歴史小説』で、「歴史小説を読むといい。歴史小説のセリフは、現代の最上級の丁寧語で書かれており、美しい日本語を学ぶことができる。また日本全国の地名、姓、名物にも自然と詳しくなれる」という――。
※本稿は、今村翔吾『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
「現代の最上級の丁寧語」で書かれている
今回は、歴史小説を日々のインプット・アウトプットに生かしていく方法について考えていきましょう。
前回(「史実からかけ離れた歴史ドラマはアリなのか…直木賞作家が『司馬史観を批判するのはおかしい』というワケ」)でも言及しているように、歴史小説で使われているセリフは、当時の人が話していた言葉の通りではありません。作家は当時の会話の雰囲気や語彙をできるだけ残しつつ、会話を構成しています。
ですから、歴史小説のセリフは、現代における最上級の丁寧言葉に近いといえます。少し真似をすれば、美しい日本語を話せるようになるということです。
ちなみに私が「美しい日本語で書かれている歴史小説」に挙げたいのは、『溟い海』(藤沢周平著、『新装版 暗殺の年輪』文春文庫に収録)、『樅ノ木は残った』(山本周五郎著、上/中/下 新潮文庫)、『敦煌』(井上靖著、新潮文庫)といった作品です。この3人はとにかく文章が上手いです。作家の能力をレーダーチャートに表したなら、「文章力」のところは突出するのではないかと思います。
また、語彙を増やす上で歴史小説を読むことは、打ってつけの方法です。何しろプロの私でさえ、いまだに「この言葉、どういう意味?」という言葉を目にする機会がたくさんあります。特に昔の作家の作品を読んでいると、「この人ら、よう言葉知ってはるわ〜」と感心することもしばしばです。