歴史ドラマはどこまで史実に正確であるべきなのか。直木賞作家の今村翔吾さんは新著『教養としての歴史小説』で、「史実を確定していくのが歴史家の仕事であり、史実の見方を提示するのが歴史小説家の仕事。両者が対立する必要はなく、お互いに協力しながら共存できるはずだ」という――。
※本稿は、今村翔吾『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです
「歴史小説」とはそもそも何を指すのか
そもそも「歴史小説」とはいったいどういうものなのでしょう。歴史小説の定義はさまざまあり、どれが正解とも言い切れません。
ただ、簡潔にいうと、歴史小説とは「歴史的な事件や人物をテーマにして、史実をもとに書かれた小説」のことです。
ここで読者の中には、こんな疑問を抱く人がいるかもしれません。「『時代小説』というのも聞いたことがあるけど、歴史小説とどう違うの?」
時代小説とは、古い時代の事件や人物を素材とした小説を意味します。そう聞くと「同じじゃないか」と思われそうですが、歴史小説が史実を重んじるのに対して、時代小説は単に過去の時代を背景にしているという違いがあります。別の言い方をすれば、時代小説はフィクション性がより強く、その時代を生きた人と人との関わりを濃密に描く傾向があります。
私が二つの小説の違いを尋ねられたときには、「ごく簡単に言い切れば」と断った上で、「大河ドラマのようなものが歴史小説で、『水戸黄門』のようなものが時代小説」と答えています。なんとなくイメージがつかめたでしょうか。