大河ドラマは史実に忠実でなくていい
大河ドラマが「史実とかけ離れている」とつっこまれることを、実は楽しみにしている。歴史に詳しくないがドラマ好きな私は、正直、史実に忠実でなくてもいいし、想像力の飛躍で物語が盛り上がるのならかけ離れてもいいとさえ思っている。
むしろ歴史研究の専門家から「史実と違う」と反論記事が出たら、それを読むことも楽しみにしている。「そうか、実際には諸説あって有力説はこうだけど、脚本家がこんなふうに解釈と表現を膨らませたのねぇ」と、学びながらもエンターテインメントの力を愛でることができるから。一粒で二度おいしいとはこのことよ。
LGBTQに配慮する家康(松本潤)、築山殿(有村架純)の乱などが話題になった「どうする家康」もまさにその類い。史実はさておき、令和の感覚にアップデートしながら、おおいにあちこちからつっこまれながらも、独自路線を突っ走る古沢良太大河、私は好き。
前半は、同時期スタート火曜枠の「大奥」(冨永愛演じる八代将軍吉宗のかっこよさったら!)に話題性も注目度もかっさらわれたような気もするが、小さいながらもヤマ場が小気味よく訪れていたので、印象に残った場面を振り返っておこう。
有村架純の築山殿の重要な役割
悪妻説が根強かった(私の中では)築山殿だが、ここでは右往左往して頼りない家康を叱咤激励と慈愛で支えた、賢くて優しい妻だった。まさに「有村架純シフト」。
今川家に辛酸を舐めさせられた悲劇を乗り越え、民の声に耳を傾け、家臣からの人望も厚い。嫌味を直球でぶつける姑(松嶋菜々子)にも、家康をまんまと風呂で落として身ごもった策士の女中(松井玲奈)にも、息子の妻だが織田信長(岡田准一)の娘であることを振りかざす傲慢な嫁(久保史緒里)にも神対応。老若男女、敵方の人間でさえも心をつかむ寛容さ。
側室オーディションの回(第10話)はちょっと可愛い嫉妬も見せたが、魅力的な悲運のヒロインだった。平和を望む民のために「慈愛の心で結びつく大きな国」を目指すはかりごとを画策するも、武田勝頼(眞栄田郷敦)の暴走によって失敗。責を負って自ら命を絶ったのが第25話(ボロボロ泣けた)で、ちょうど前半が終了。
運命に翻弄されながらも、のちに太平の世を目指す家康の信条の礎を築かせた功労者であり、前半の重要な柱だったと思う。築山殿の死は家康を変えた。信長を殺して天下をとる決意をさせた。「どうする」から「こうする」への転換を有村架純が見事にサポートした感がある。