時代は変わり、近年では、ゴードン・モデルのような共感、協働型のリーダーシップ論が主流を占めるようになった。たとえば、最近注目されつつある“横のリーダーシップ”も、「L.E.T.」のスキルと相関が高い。主従関係によってチームを統率する旧来のリーダーではなく、感受性やコミュニケーション能力を基にフラットな信頼関係を構築するリーダーが、これからの社会には求められているのである。

今や「L.E.T.」の研修プログラムは世界各国に普及し、AT&T、GEなど1000以上の企業で採用されている。だが、日本で本格的に研修が始まったのは、つい昨年のことなのだ。

ただし、「コーチング」「ファシリテーション・スキル」など、ゴードン・モデルから派生したと思われるさまざまな概念は、広く認知され、活用されている。ここで原点に立ち戻り、ゴードン・モデルの基本と「L.E.T.」のエッセンスを簡単に紹介しよう。

「L.E.T.」の究極の目標は、職場の人間関係を円滑にし、組織の生産性を上げることといえる。人間関係には、厄介な問題がつきもの。対立や衝突も避けられない。そうした問題が起こったとき、相手の行動が「自分にとって受容できるものか、そうでないか」を見極めたうえで、行動変容を促したり、対立の解消を図る──その各プロセスで必要な技能や手順を統合的に教えるのが「L.E.T.」のワークショップなのだ。

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性格によって対応を決めるのではなく、相手の“行動”を基準にするのが特徴のひとつ。そこでベースとなるのが、「行動の窓」というダイアグラムである。

これは「私の窓」から「相手の行動」がどう見えるのかを、判断するもの。たとえば「Aさんが涙目でオフィスに入ってきた」という場合、相手(Aさん)に何らかの問題が生じている(ニーズが満たされずにストレスを感じている)ことは示唆していても、私にとって直接的な問題はないため「私はその行動を受容できる」。しかし「ある部下が、あなたの仕事にとって重要なレポートの提出期限を守らない」という場合は、相手ではなく私に問題が生じてストレスが募っているため「(私は)相手の行動を受容できない」というわけだ。

この受容・非受容の境界線は固定されたものではなく、環境やその時々の気分・状況で動くという。