知らぬ間に部下のやる気を消す言葉をかけていないか

一方、話し手の立場になると、自分の言った内容を繰り返してもらえるだけで、「真剣に聴いてもらっている」と感じることがわかる。心情を話すことで何となくすっきりするし、やりとりを何度か続けるうちに自分の頭も整理できる。まるで「感情のたまねぎを剥くように」問題の核心に迫ることができるのである。

さて、賢明なるプレジデント誌の読者なら、もうおわかりだろう。この技法は、いま人気の「コーチング」の手法に類似しているのだ。

「ゴードン・モデルは、ゴードン博士の師である著名な臨床心理学者、カール・ロジャース博士のカウンセリング技法をベースにしていますが、のちにゴードン・モデルからヒントを得て、さまざまな技法や概念が派生した。『コーチング』もそのひとつだと思います」。日本で「L.E.T.」の研修を展開するセカンド・ウィンドのブライアン・ミラー社長はそう語る。

ロジャース博士の心理カウンセリングは「共感的理解」「無条件の肯定」などに基づく「傾聴」が基本である。ゴードン・モデルでは、この発展形である「アクティブ・リスニング」に加え、コミュニケーションを阻む言い回しを避けることも盛り込まれている。

たとえば、相手が問題を抱えているとき(図「行動の窓」(1)のエリア)、自分の経験に照らした「アドバイス」や「説教」は避ける。先のAさんに対し、「もっとしっかりしたらどうだ」「君は言い返すべきだよ」などと言うことは、相手を信頼していないことを示すだけ。場合によっては罪悪感を植えつけることにもなりかねない。

また、「君はただ周囲に同情されたいだけだろう」と「分析」したり、勝手な解釈をすることも、相手の反発を招く恐れがある。「職場で涙を見せるな」という「命令」や、「今度泣いたら、このプロジェクトから外すぞ」といった「脅し」はもってのほか。「君のその精神的な弱さが問題なんだ」という「批判」も、相手が心を閉ざす原因となる。

さらに、「気持ちはわかるよ」という「同情」もよくないという。たとえよかれと思って慰めの言葉をかけても「どれだけ私が悩んでいるか、本当はわかっていないくせに。うまいことを言って、思い通りに私を動かそうとしている」と悪意にとられる危険性があるからだ。

どれも上司という立場ならつい言ってしまいそうなフレーズばかり。「コミュニケーション・ロードブロック(障害物)」と名付けられた、こうした危険な言い回しには注意したい。