AT&T、GEなど1000社を超えるアメリカの大企業で採用されているリーダー研修に「L.E.T.」がある。臨床心理学者トーマス・ゴードン博士考案によるこのプログラムでは、リーダーに必須である「聴く力」を強化する。

誰しもリーダーとして生まれるわけではない

変化の激しい時代にあって、中間管理職に求められる役割は重い。プレーイングマネジャーとして現場の先頭に立つことを期待される一方、部下をまとめるコミュニケーション能力や問題解決能力も必要とされる。

しかも、かつての日本のように、部下が黙って自分に仕えてくれるわけではない。強すぎる態度をとれば反抗や抵抗にあい、下手に出ればナメられる。昇進したからといって、単純に喜ぶことはできないのだ。

尊敬され、信頼される上司になる秘訣があるなら、ぜひ知りたいと思うのは当然のこと。人は「リーダーとして生まれる」わけではない。適切なリーダーシップを発揮するには、それなりのスキルを習得する必要があるのだ。もし部下との人間関係に悩んでいるのなら、アメリカで約40年にわたって実践されているリーダー研修「Leader Effectiveness Training(L.E.T.)」が、参考になるかもしれない。

「L.E.T.」の基本概念は、権威主義的な縦のリーダシップではなく、チーム参画型のリーダーシップを促進すること。権力で部下を従わせるのではなく、チーム全員をパートナーとして協力的な人間関係を築くことである。

そのためのコミュニケーション・スキルとして、共感的な「アクティブ・リスニング」や、正直で誠実な自己開示、互いにwin-winとなる対立の解決方法などを習得する。こうして意思決定に皆を巻き込み、「チームに眠る智恵」とやる気を引き出すのである。

驚くのは、このモデルの原型が50年以上も前に考案されていたことである。本モデルの生みの親、臨床心理学者のトーマス・ゴードン博士は、第2次世界大戦時、空軍で小集団を率いた際に、「優秀なリーダーであることの難しさ」を痛感したという。

部下の反逆と反抗。脅しても、おだてても、決してうまくいかない──。このような体験を経て、効果的なリーダーシップについて深く考えるようになったゴードン博士は、1955年、新しい形のリーダー論を自著にまとめる。だが、リーダーの権威を否定するような内容が革新的すぎたため、当時はまったく売れなかったらしい。