※本稿は、中島恵『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
大崎の物件は約8300万円→1億1000万円に
東京の中心部。ライトアップされた東京タワーの夜景が見える高級会員制クラブにたびたび足を運んで優雅なひとときを過ごす30代後半の中国人男性がいる。大手企業に勤務するA氏だ。
仕事は多忙でプレッシャーも大きいが、得意先や友人を誘って、時折このクラブを訪れ、ワインを飲んだり、美味しい料理を食べたりして、リラックスするのが楽しみだという。
個人会員の入会金は約130万円、年会費は約20万円。A氏が入会できたのは、年収約2000万円のエリート会社員だからというだけではない。それ以外にも副収入があり、生活にはかなりの余裕があるからだ。
副収入は不動産によるもの。彼が都内で所有している物件は4戸で、大崎、池袋、そして目黒に2戸だ。購入時期と購入時の金額、そして取材時(2022年秋)の価格を聞いた。
「大崎駅近くの物件の面積は約67平方メートル。購入時の価格は約8300万円。現在は1億1000万円ほどです。池袋の物件は投資用のワンルームマンション。19年に約2300万円で購入後、2900万円にまで跳ね上がっています。目黒の物件のうち、1戸は3600万円で購入し、現在は4000万円になっています。
10年くらい前、初めて千葉県に約100平方メートル、約2840万円の物件を買いました。そこは通勤が不便だったので3100万円で売却したのですが、それ以降、投資用マンションを次々と買うようになったのです」
狙い目は「大きい駅から徒歩6分以内、山手線の南側」
いろいろ経験を積み、不動産を買う条件として3点を挙げる。まず最寄りが大きな駅であること、駅から徒歩6分以内であること、資産価値の高いJR山手線の南側であることだ。
「一つの物件だけでも毎月の家賃収入は30万円以上あるので、自宅のローンがカバーでき、家賃収入で固定資産税も賄えます。いまの会社に今後も勤めたいと思っているのですが、定年になったら、毎年不動産だけで600万円ほどの収入になる計算です。老後の生活費には困りません。老後の準備は万全です」
A氏が不動産を買うようになったのは、もちろん、資産を増やすことが大きな目的だが、「老後の不安」が常に念頭にあるからだという。
彼の生活は安定しているが、常に「老後」を考えるのは、脳裏に母国・中国の国内事情がちらついているからかもしれない。日本以上のスピードで少子高齢化が進む中国では、老後に不安を覚える人は少なくない。
多くの中国人がわざわざ日本まで不動産を買いにやってくるのも、投資目的や中国社会の不安定さだけが理由なのではない。
中国バブルが崩壊する可能性、不動産不況、政治問題など、国内のリスク要因がとても多く、自らの老後が心配だから、資産を海外に持ち出せる人ならば、どこかに財産となる「モノ」を所有しておきたいのだ。