※本稿は、中島恵『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
上海なら2000円を超えてもおかしくない
2022年12月、東京駅の地下街。久々に来日した男性、王偉氏はランチタイムにたまたま入った和食店で好物の刺身定食を注文した。新鮮なマグロ、ハマチ、イカの盛り合わせに白飯と漬物、味噌汁で1180円。王氏はいう。
「上海でこのレベルなら100元(約1900円)か、それ以上します。しかも、これほど鮮度はよくない。最近は上海でも美味しい日本料理店が増えていますが、そういう店は高いので毎日は行けません。
上海の日系回転寿司チェーンでは1皿最低10元(約190円)です。日本で1皿100円でなくなったことがニュースになったそうですが、それでも上海よりずっと安くて美味しく、ネタの種類も多い。
日本国内の物価が海外ほど上がらず、円安の影響もあって“安いニッポン”問題が話題になっていることも承知していますが、海外から日本に来ると、食べ物は本当に安くて、美味しくて、とにかくコスパがいい。高級店を除き、私はどこに行っても3000円の食事で十分満足できますよ。
日本人は意識していないかもしれませんが、これだけ質が高くて美味しいランチが、平均的な所得の人でも手が届く。しかも大きなハズレがなく、お店の人から騙される心配もない。こんな国は世界中、どこにもない。日本人は本当に幸せです。コスパのよさは食べ物以外でも、日本のすべてに当てはまります」
「空前の日本食ブームが巻き起こっているんです」
中国には安くて美味しい中華料理がいくらでもあるので、日本で食べる日本料理について中国と比較するのはおかしいという意見もあるだろう。
だが王氏は、「もちろん上海の中華は最高ですが、料理のジャンルを問わず当たりハズレが大きいし、農薬など食材の安全性も心配です。中国の場合、値段が高ければ安全性に問題がないかというと、必ずしもそうとはいえないので……。
そして日本は中華も安い上に以前より味も良くなっている。フランス料理だと、中国は日本の2倍以上のお金を出さないと、日本と同レベルの料理は食べられません。パンやケーキ、コンビニで売っているお菓子のクオリティも、めちゃくちゃ高い。
日本はまさに食の天国。とくに日本料理が恋しくて、中国ではいま空前の日本食ブームが巻き起こっているんです」という。
中国人が豊かになり、海外の料理もどんどん食べるようになったことも関係あるが、日本食ブームの背景にあるのはコロナ禍だ。日本旅行に行きたい、でも簡単に行けない。その結果、中国国内で日本料理店が急増しているのだという。日本風の居酒屋も全国各地で、猛烈な勢いで増えている。