※本稿は、中島恵『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
中国人は中国の医療体制を信頼していない
前回記事〈上海のマンション1室分で、日本ならビル1棟が買える…中国人富裕層が日本の不動産を爆買いする本当の理由〉では、中国人が日本のマンションを多数購入している実態を書いた。その理由は投資目的や中国社会の不安定さだけではない。中国の医療体制について、中国人自身があまり信頼していない、という点も関係している。
少し前の話だが、2015年、私は北京にある協和病院の内部を見学する機会があった。
公立の協和病院は、全国的にも有名な三級病院だ。中国の病院は一級から三級まで分類されており、三級が最も医療レベルが高いが、人口と比較してその数は非常に少ない。大都市に集中している上、中国全体の病院の10%未満しかない。
日本でよく目にする街のクリニックや医院は中国ではあまり見かけない。ここ数年、私立のクリニックが増えているが、日本のような身近な存在ではなく、経済的にゆとりのある人が、混雑している公立病院を避け、高額でもいいからと予約して通院するところだ。
中国は公的医療保険制度をとっており、会社員、公務員、自営業者は加入が義務づけられている。都市部の会社員など、たいていの人は医療保険を使って公立病院に足を運ぶが、常に混雑している。
玄関ホールに布団を敷いて待つ人も
中国の医療保険は日本の国民皆保険のように、全国どこでも保険証を持参すれば診察してもらえるものではなく、地域ごとに運営方法や制度は異なり、その人の戸籍などによって自己負担額の割合も異なる。高齢者、学生、農民は任意加入で、入っていない人も多い。
協和病院の外来の入り口でまず驚いたのは、地方からやってきた患者とその家族十数人が布団や椅子、ボストンバッグなどを置いて順番待ちをしている姿だった。
案内してくれた担当者によると、彼らの多くは、農村では治療できない病気のため、十数時間かけて北京の大病院までやってくるが、順番待ちをしている数日間、ホテルに泊まるお金がないので、入り口付近に座っているという。夜になると、玄関ホールに布団を敷いて寝る人もいると聞き、さらに驚かされた。
受付から診察室、入院病棟まで各フロアを見せてもらったが、たとえば医療費は、現在も一部の病院を除いて、基本的に前払い制だ。入院中も同様で、支払いをしないと治療は一切してもらえない。
ちなみに中国は完全看護ではなく、着替えや食事の介助、診察の付き添いなどのため、ヘルパーを雇うのが一般的だ。