「老後のことを考えたら、日本がいちばん」
4月末のこと。以前、拙著『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)の取材で知り合った、都内の中国系不動産会社「Worth Land」代表の杉原尋海氏を再訪した際、杉原氏が思いがけない話を切り出した。
それは「日本に住んで日本国籍を取得したあと、中国や第三国に行って長年住んでいたのに、年を取ったら『やはり、日本がいちばんいいね』といって日本を再評価し、日本に舞い戻ってくるケースを最近よく聞くんですよ」という話だった。
杉原氏は上海生まれの中国人だ。同氏によると、今春、コロナ禍以来、約3年ぶりに上海に戻ったが、その際、複数の顧客と会い、日本の不動産物件の成約手続きをしたという。そのうちの1人は70代の男性で、若い頃に日本に住み、日本国籍を取得。その後は別の国で暮らしたのち、上海に帰国していた。
しかし、「老後のことを考えたら、やはり日本がいちばん安定しているし、暮らしやすい」と考え、上海で所有していた物件を売り払い、その資金を元手に日本の物件を購入したというのだ。
日本→中国や第三国を経て日本に腰を落ち着けたい
また、60代の別の男性も同様で、「老後は安定した日本で生活したい」といって、日本の不動産を購入したという。これまで、私も中国人の日本の不動産購入について取材を重ねてきたが、私の知る限り、その多くは30~40代の働き盛りで、中国国内の政治事情に対する不安や財産のリスクヘッジ、投資などのために、日本に不動産を買うという人が多かった。
だが、杉原氏が指摘するように、それ以外に、さまざまな国で生活した結果、日本を見直してやってくるケース(中国→日本→中国や第三国→最後は日本に腰を落ち着ける)もあるという話に、私は興味を持った。
日本では、年を取ると引っ越しが億劫になる人が比較的多いように感じるし、老後を海外で生活したいという人は多くないと思われるが、中国人は異なる。彼らの中には「自国を含めて、複数の国に実際に住んでみたからこそ、日本のよさを客観視でき、改めて『母国よりも、やはり日本がいい』と実感し、年を取ったら日本に住みたい人が多い」のだという。
「やはり日本がいい」というのは、まるで日本人が海外旅行から帰ってきたときにホッと安堵したときの感想のようだが、そこには、政治情勢や財産のリスクヘッジという点以外に、中国人ならではの理由もあるようだ。