メニューは鶏のから揚げや揚げ出し豆腐、枝豆…

内陸部の湖北省武漢市。日本留学を経て、数年前からこの都市で働く30代の中国人女性がSNSに「ここは日本?」と思うような居酒屋の写真を載せていた。

店外には縄のれんと赤ちょうちん。店主が書いたメニューには、鶏のから揚げや揚げ出し豆腐、枝豆などが並ぶ。

数十年前から中国にも日本風の居酒屋はあり、珍しくなかったが、以前は日本人駐在員向けが中心だった。出店場所も日本人が居住する地区などが多く、味の面では日本とは比べ物にならなかった。

だが、この女性がいうには、「(最近は)味もかなりイケます。(中国でも人気の)日本のテレビ番組『深夜食堂』などの影響で、こだわりの居酒屋やラーメン店が増えている」そうだ。

中国のグルメサイト『大衆点評』によると、18年に4万店だった中国の日本料理店は、21年には8万店と倍増した。サイトを見ると、ラーメン店やお好み焼き店なども、広い範囲で日本料理とされる。

上海在住歴が長い日本人経営者にも話を聞いてみた。

接待で使われる日本料理は「1人約6万円」

「確かに日本料理ブームといって差し支えありません。食材もかなりよくなっています。回転が速くなっていることが関係していると思います。

でも値段もとても高い。主観では、上海で少し贅沢な日本料理はコースで600~800元(約1万1400円~1万5200円)。もう少し高級だと1200~1500元(約2万2800~2万8500万円)。さらに高い店では2000元(約3万8000万円)以上ですが、高級店に日本人はほぼいません。高級店に足を運べるのは中国人富裕層だけです。中高年だけでなく富裕層の子息、いわゆる『富二代』など20~30代も行くそうです」

私自身も、在日中国人経営者から、「上海の富裕層の知り合いが接待で使う日本料理は1人3000元(約5万7000円)以上」と聞いたことがある。日本人経営の店もあるが、その多くは中国人経営の店だ。

中国ではメンツの関係から、値段が高いほどいいものなのだ、といった風潮がある。そのため、料理にエディブルフラワーを散りばめたり、ドライアイスを置いたりして見た目も華やかにし、値段を吊り上げることもある。

しかし、訪日体験のある中国人ならば、「日本なら外見をそんなに飾らなくても、質が高くて、コスパのよいものがたくさんある」と知っている。考えてみると、日本では多くの店が幅広い中間層をターゲットにしたリーズナブルな価格設定にしていて、クオリティも一定以上。むろん食材の安全性については心配することがない。