「学びの共同体」をいかに作るか

まとめれば、日本はリスキリングに深い関わりのある「他者」について、「基礎工事」の部分がボロボロであり、かつそれを自ら開拓できるような社会開拓力も無く、かつそのことを問題として思わず生きているという、重層化された課題を持っています。他者とつながる「リソースが無い、開拓力が無い、課題認識が無い」という「三重苦」は、そのまま「リスキリングのための三重苦」に直結するのです。

小林祐児『リスキリングは経営課題』(光文社新書)
小林祐児『リスキリングは経営課題』(光文社新書)

しかし、ここまで考えれば、企業がリスキリングを促進するために考えるべきことのヒントも見えてきます。リスキリングを促進したい企業が考えるべきは、「個性」に合わせてろうそくに一本一本火をつけるようなやり方ではなく、集団的な「学びの共同体」をいかに作り、学びへの意欲に「もらい火」的な延焼を起こすことができるかです。そしてそれは、「従業員の自主性」や「自律的な学び」などに任せていてもまず進みません。ほかの国ならまだしも、学びのために他者と積極的に自らつながる従業員は、日本ではごく一部だからです。

学びをフックにした「他者」とのつながりのための仕掛けは、無数にあります。例えば、コーポレート・ユニバーシティ的な継続的な関係づくり、同世代従業員を集めたキャリア・イベントの開催、社内勉強会・事例共有会の開催、ピア・ラーニング(同僚との学び合い)のための社内SNSの活用、社外の他者とつながるプロボノ支援、副業解禁、研修の後の「懇親会」設定などなど、「他者」と「学び」を紐付けようとする工夫は、書ききれないほどあります。それは、企業が促進することはもちろん、個人主体で可能なものも多くあります。

こうした工夫やアイデアの実践は、孤独に机にかじりつくテスト勉強のような「リスキリング」のイメージにとらわれている限り出てきません。キャンプで炭に火をつけるためには、「空気の送り込み方」や炭の「組み方」が重要になるように、働く人々の関係的・環境的なデザインを考えていくこと。それこそが、リスキリングの最大の課題である「一部の人しか学ばない」という課題についてのポイントです。

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