人との「つながりの無さ」が学びを阻んでいる
リスキリングを進めようとする企業が、もっとも頭を悩ませるのが、「研修などを用意しても、一部の社員しか学ばない」という「学びの偏在化」問題です。自律的な学び、キャリアに合わせた選択的な学び、といくら言っても、ついてくる従業員が1、2割しかいなければ施策は失敗に終わります。
その背景にある問題は、すでに連載で述べてきました。ポイントは、日本の「社会関係資本の希薄さ」と、他者を信頼する「社会開拓力の無さ」という2つのハードルです。
大人の学びは他者との相互作用の中で「社会的」かつ「共創的」に営まれます。机の上で一人で教科書を読む学校の試験勉強ではありません。モチベーションも、学びそのものも、つまり学ぶ本人とその周囲にいる「他者」とのさまざまな関わり方であることが学習理論の発展とともに多角的に明らかにされてきました。
筆者と立教大学の中原淳教授との共同調査においても、働く人の学び直し意識には、組織内の上司・同僚からの継続的な学習支援だけでなく、「組織の外の他者」との交流もプラスに寄与していました。自社について他人に紹介したり話したりすることが多い人は、学びなおし意識が高いということも分かっています。
「学び」のためのコミュニティづくりが不可欠
しかし、下記の世界価値観調査の結果を見ても分かる通り、日本社会の特徴は、「他人を信頼しない」ということです。
日本人は、すべての人を信頼しないのではなく、「知らない人」と「すでに知っている人」との信頼ギャップが極めて大きい国です。これはつまり、日本人は自ら人間関係を積極的に開拓していくためのベースとなるような他者への信頼があまりにも低いことを意味します。この状態では、学ぶ仲間を自発的に作っていくような個人は、学びの「他者」を外部まで広げていくような個人が増えていくことは、ほとんど期待できません。現在の「独学」ブームもまさにそのことの表れとして見ることができます。
企業が組織としてリスキリングを進めたいならば、この「学びの共助」とも言うべきコミュニティ化を戦略的に考える必要があります。スローガンは、「学びをフックにして、他者とつながり続けるためのハコづくり」です。