「コーポレート・ユニバーシティ」という希望

こうした学びのコミュニティ化に関連して、筆者が特に注目し期待を寄せているのが、「企業内大学」「コーポレート・ユニバーシティ」の流れです。いま、多くの企業がコーポレート・ユニバーシティとして自社の研修システムを刷新・進化させていっています。

コーポレート・ユニバーシティとは、企業が社員教育のために企業内に設立する教育プラットフォームのことです。通常、バラバラに実施されている企業内の研修を組み合わせて、「学校」というメタファーを用いながら統一的に育成体系を考えていく仕組みです。

一言にコーポレート・ユニバーシティといってもその具体的な内容は千差万別です。社内で講師を集め、仕事のノウハウからマインドセットまで多様な講座を用意し、従業員参加型のイベントやワークショップなどを企画していく企業が多いですが、目的を「次世代リーダー育成」に偏らせている企業もあれば、新卒入社者全員を対象にしたデジタル教育に力を入れる企業もあります。

こうしたコーポレート・ユニバーシティは、特に新しい実践ではありません。最初期のコーポレート・ユニバーシティとしては、ゼネラル・エレクトリック(GE)社が1955年にフロリダ州に設立したものがあり、他にはマクドナルドのハンバーガー大学、モトローラのモトローラ大学などの事例がよく知られています。アメリカのコーポレート・ユニバーシティは近年も増加を続けており、2010年には3700機関以上あるとも言われます。また、大学やコミュニティカレッジと提携して教育プログラムを実施することが多いのもアメリカのコーポレート・ユニバーシティの特徴です。

日本の十八番としての社内教育施設

このような例を並べると、コーポレート・ユニバーシティはいかにもアメリカ的な先進的な経営施策に見えます。しかし、企業が「学校」という独自の教育機関を通じて人を内部育成する施策は、もともと日本の製造業の十八番とも言える施策でした。

日本では明治後期以降、特に日露戦争を契機として生産技術が大幅に向上するにしたがって、そうした技術を継続的に学んでくれる技術者が大量に必要になりました。しかし、それまでの生産現場は、きわめて流動性の高い親方請負制でした。親方が工場主(資本家)から仕事を請け負って、親方が部下である職工や徒弟らに作業を行わせる、間接雇用のような形です。

流動性の高いこうした人材に頼っていては安定的に工場のラインを動かすことは難しいですし、知識や技術が企業の中に溜まっていきません。その課題をクリアするために、親方を通じた間接管理から人を長期的に雇う方向へとシフトしていく中で生まれたのが、技能者養成施設としての企業内訓練校です。企業内訓練校は、人材管理そのものの変化の中で生まれた、「ナレッジ・マネジメント」施策だったわけです。

そうした企業による訓練施設は、現在も認定職業訓練校などの形態で、大手製造業企業において数多く運営されています。トヨタ自動車のトヨタ工業学園やデンソーのデンソー工業学園、日立製作所の日立工業専修学校などが伝統的なものとしてよく知られています。

工場で機械を整備する作業員
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