世界の一流企業のCEOにインド人が就任するケースが増えている。なぜ日本人は世界のリーダーになれないのか。貧しい家庭の子供30人を選抜し、国内最難関の大学に次々と合格させるインドの無料塾「Super 30(スーパーサーティー)」を運営するアナンド・クマールさんに聞いた――。(聞き手・構成=JISTEC 上席調査研究員・西川裕治)(後編/全2回)
IITの合格発表を受け、歓喜するSuper 30の生徒たちとアナンド・クマールさん(中央)
写真=アナンド・クマールさん提供
IITの合格発表を受け、歓喜するSuper 30の生徒たちとアナンド・クマールさん(中央)

教育は成功への近道

――インドでここまで教育に熱心な人が増えたのはなぜでしょうか。

インドでは、「教育が成功への近道」という考え方が信じられています。私の塾生が合格を目指すインド工科大学(IIT)はトップ大学であり、合格するのは日本の東京大学や、米国のMITやハーバード大学よりも難しいとも言われています。その合格率は1%以下と競争は熾烈しれつです。

その代わり、IITに合格すれば、給料の良い会社へ入社することができ、その子供だけでなく、親や親戚に至るまで、貧困のサイクルから抜け出すことができます。だから親は自分の子供をIITなどのトップ大学に行かせたいと切望し、インド各地には多くの進学塾が存在しているのです。また、今ではSuper 30のやり方をまねた進学塾も多く登場しています。

個人だけでなく州政府などもSuper 30のコピー版を作っています。この動きはインドの貧しい家庭の若者にとって、たいへん良いことなので、求められればいつでも彼らに協力するつもりです。ただ、これらの中には、金儲けのためだけの「偽Super 30」もあるのは残念なことです。

「貧しくても意志さえあれば成功できる」

私がSuper 30を創立した当初は、世間の人々は「うまくいくはずがない」とあまり私を信じていませんでした。なぜなら私には、お金も名声も支援者もほとんどなかったからです。

しかし、私はその壁を自分の意志の力で克服して、輝かしい成果を出してきたのです。貧しい路傍の物売りやオートリクショー(小型3輪タクシー)の運転手などの子供たちがIITに入学し、卒業後には欧米や日本など世界で活躍したことで、Super 30に対する世間の見方は大きく変わり、現在のような高い評価を受けるようになりました。

二十数年前には、貧困層はIITの存在すら知らず、自分の子供をIITに入学させるなど夢のまた夢だったのです。それが今では、最貧困層の人たちでも自分の子供をIITに入れたいと願うようになってきたのです。つまり、お金はなくても意志があれば成功できるという考え方が広く拡散、浸透してきたのです。Super 30の活動は、そのような大きな社会的変化をもたらしたことが重要な成果だと確信しています。

Super 30が評価され、ドラウパディ・ムルム大統領(右)からパドマ・シュリ賞を授与されるアナンド・クマールさん
写真=アナンド・クマールさん提供
Super 30が評価され、ドラウパディ・ムルム大統領(右)からパドマ・シュリ賞を授与されるアナンド・クマールさん