このままでは「やる気のない個人」は救えない
このように「他者」や「共同体における学び」を重視してきた研究の蓄積とは逆をいくように、今、世間の「やる気」や「動機付け」についてのイメージは、「個人の内発的動機付け」に大きく傾いています。学びやスキル獲得のために、「自分の中に熱いものをもつ」――こうした動機付けのイメージは広く一般的に見られるものですし、「リスキリング」について人事や経営者と議論していても、こうしたイメージを持っている人は多くいます。
筆者は、「個々の心の内面的な動機付け」ことを重視するこうした動機付けへのイメージを、「ろうそく型」の動機付けと呼んでいます。アメリカのロックバンド、ドアーズに「ハートに火をつけて」という代表曲がありますが、動機付けはそうした「個々の心の内面に火をつける」ことだと思われがちです。
この「ろうそく型」の「内発的動機付け」への傾きは、「個」や「自分らしさ」に傾いている社会の在り方をきれいに反映しているとも言えますし、ある側面では現実的な「適応」とも言えます。すでに成長が鈍化した日本企業では、賃金やポストといった報酬を十分に用意することができません。そうした場合、個人の内から湧き上がる、「内発的」な動機付けこそが重要だ、という発想に傾くのでしょう。
しかし、「個の内面」に注目する「ろうそく型」動機付けのイメージを「リスキリング」にまで持ち込むのは、あまりにも窮屈です。動機付けの在り方を個人の心の「意味付けの仕方」に限ってしまえば、モチベーションアップは究極的にはすべて個人の「気の持ちよう」です。そうした発想では、組織でリスキリングを考えるにあたっても、「やる気が続かない個人」にとっても、処方箋が出てきません。
「ろうそく型」から「炭火型」の動機付けに転換せよ
不足しているのは、まさしく先ほど「高め合い」という機能で見てきた「他者」を通じた動機付けの発想です。他者を通じた、他者を経由した動機付けは、先ほどの「ろうそく型」と対比させるならば、いわば「炭火型」の動機付けです。
他者の関係性やコミュニケーションという相互作用から“もらい火”的にモチベーションを上げていく、他者との強い・緩いつながりから刺激を受ける炭火型の動機付けこそが、リスキリング推進に必要な動機付けの方法です。