※本稿は、和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)の一部を再編集したものです。
正常値まで下げる「引き算医療」より「足し算医療」を
いまのご時世、60代ではまだまだ現役で働いている方は多いし、ルックスも頭も若々しい方がたくさんいらっしゃいます。ところが、元気に60代を過ごしてきたとしても、70代になると、さすがに体のあちこちに異常を感じるようになる。
そこで検査を受けてみると、血圧が高い、血糖値が高い、コレステロール値が高いなどと医者に言われ、あれやこれやの薬が出されて、それらの高い数値を「正常値」まで下げる、いわば“引き算”の治療をされることになります。
私は、それにはいささか異論があって、1年ほど前に出した『70歳から一気に老化する人 しない人』(プレジデント社)という本の中で、「年をとったら引き算医療をやめて、足し算医療にしよう」という提案をしました。
どういうことかというと、塩分の取りすぎはだめだとか、糖質のとり過ぎはよくないとか、血糖値が高ければ下げましょう、血圧が高ければ下げましょう、コレステロールが高ければ下げましょうと言われます。私はこれを「引き算の治療」と呼んでいるわけです。
高齢者の医療をずっとやってきた私の経験から言わせてもらうと、血圧や血糖値がやや高めのほうが元気だし、コレステロールは高めの人のほうがむしろ長生きしている。
そのほうが癌にもなりにくいというのが、ある種の疫学調査みたいなことでもうわかっているわけですね。
それはなぜかといえば、年をとればとるほど、「あり余っている」害より「足りない」害のほうが大きくなるからです。つまり、血圧を下げすぎると(足りなくすると)頭がふらふらする。そうすると転んで骨折して、そのまま寝たきりになる恐れもある。血糖値とか、ナトリウム(塩分)を下げすぎて(足りなくして)しまうと、意識障害を起こして頭が朦朧としてくる。
つまり「足りなくなった」ための害が高齢者の交通事故の大きな原因になっていると思うのです。