※本稿は、木村知『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
そもそも「老化」とはなにか
そもそも「人の老化」とは、いったいどのような現象なのでしょうか。少し医学的な話にお付き合いください。
人体は数十兆個の細胞によって構成されていますが、分裂を終えた細胞はDNAやタンパク質、細胞膜が傷つくことによって老化していくことがわかっています。老化した細胞は動きも悪くなり機能も低下することから、そのような細胞で構成された臓器は、当然ながら「老化した臓器」ということになります。
臓器によって時間差はあるにせよ、各臓器の機能も低下していくことは避けられません。すなわちそれらの老化した臓器を有する個体自身も、各種の生理機能が低下した「老化した個体」となると言えるわけです。個体により差はありますが、心臓、肺、腎臓といった主要な臓器の機能は30歳以降ほぼ直線的に低下し、それぞれ60歳代から80歳代にかけて70%から40%レベルに落ち込んでいくと言われています。
加齢によってどのような具体的変化が身体に起きてくるのか見ていきましょう。
身体の総水分量もみるみる減っていく
まず変化するのは「体組成」です。人の身体は、水分、脂質、タンパク質、ミネラルで構成されていますが、そのバランスが変わってきます。年齢とともに肌がかさついてくることを実感している人もおられるでしょうが、身体の総水分量は、絶対量でも体重あたりの量でも、高齢者は若年者と比べて少なくなっていきます。
水分のうちでも、血漿やリンパ液といった細胞外液はあまり減少しないものの、細胞膜の内側にある細胞内液は著しく減少していくことが知られています。
たとえば脱水によって細胞外液が失われると、細胞内液が細胞外へと移動して体内をめぐる循環血漿量を維持しようとします。しかし高齢者の場合は、もともと細胞内液量が減少しているため、軽度の脱水であっても循環血漿量が保てずに血圧が低下するなど重症化しやすくなるのです。
さらに水分量の減少は薬物を投与した場合の血中濃度も上昇させてしまうため、薬が効きすぎたり副作用が出やすくなったりする可能性もあります。