内臓脂肪と臓器の老化がもたらす「3つの低下」

また体組成のうち、脂肪の量は加齢によって比率が上がることが知られていますが、これは一部の睡眠薬など薬剤によっては蓄積効果(繰り返しの投与によって薬剤の消失よりも蓄積が上回り中毒を起こすこと)をもたらす危険性があります。高齢者への薬物投与が種類、量ともに気をつけなければならないと言われるのは、このような理由もあるからです。

加えて、内臓脂肪が増えると高血糖や高血圧、脂質異常をもたらし病的老化を促進させることにも繋がっていきます。これらの体組成の変化と臓器の老化は、次の3つの低下として現れてきます。

予備力の低下、適応力・回復力の低下、感染にたいする防御力の低下です。それぞれについて簡単に記しておきます。

予備力の低下とは、安静時や負荷のかからない状況では見えない機能の低下が、運動などの負荷がかかった際に現れてくることを指します。若年者よりも高齢者の方が少しの負荷や軽度の疾患が重なることによって心不全を起こしやすくなりますし、瞬発力の低下によってつまずくなど、少しバランスを崩しただけで転倒してしまうという現象が生じるのはこのためです。

老化は避けられなくても、ゆっくりにすることはできる

適応力・回復力の低下とは、身体の内部環境がなんらかの原因でバランスを崩した際に、正常な状態に戻す力が低下することです。

たとえば、寒冷や高温など急激な環境の温度変化に体温の調節機構が対応できなくなることで低体温や高体温を起こしやすくなりますし、血圧を調節する機能も加齢によって低下するため些細ささいな負荷で変動しやすくなります。

さらに免疫系の機能低下によって感染にたいする防御力も低下します。基礎疾患を有していたり寝たきりの高齢者では、新型コロナウイルスはもちろんのこと強毒性でない病原体によっても重篤な感染症が引き起こされやすくなります。

くり返しになりますが、老化によるこうした変化は、程度の差や時間差はあるにせよ、誰にでも生じ得ます。そのような変化が生じてもいかに急速に進ませないか、その変化とともにどう前向きに生きていくかということが、「幸せな最期」を迎えるうえで非常に重要と私は考えます。