部下の報連相はアテにならない理由

私が2002年に設立した北の達人コーポレーションは、自社ブランドの化粧品や健康食品を通信販売する会社です。12年には株式を上場し、16年以降の4年間で売り上げが約5倍、営業利益が約7倍になるまで急成長を遂げました。ところが、20年ごろ、成長がストップしてしまいました。

北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下勝寿
北の達人コーポレーション 代表取締役社長 木下勝寿 2002年「株式会社北の達人コーポレーション」設立。独自のWebマーケティングを強みとして東証プライム上場を成し遂げ、一代で時価総額1000億円企業に。著書に『チームX』(ダイヤモンド社)など。

通信販売の売り上げは、広告のクオリティに大きく左右されます。当社はこだわりの商品開発とともに、Webマーケティングを武器に業績を伸ばしてきました。その効率化を追求するあまり、成功事例を踏襲した広告づくりが多くなっていたのです。当社だけではなく、Webマーケティング業界全体が同じ状況に陥り、ネット上には似たような広告ばかりが溢れました。どんどん広告への反応が落ちて、トップを走っていた当社はいち早く成長が止まってしまいました。

Webマーケティングは比較的個人のスキルに依存している業界です。急成長を遂げてきた当社も、実態は個々のセンスに任せた野武士集団でした。私自身がプレーヤーとして現場に入れば一定の成果は上がると考えましたが、一人でできることには限界があります。このままでは、業界とともに沈んでしまう――そこで、「組織として成果を上げる」ための改革に本格的に取り組みはじめました。

全部任せてみて、どこまでできるのかチェックします

とはいえ、私自身のスタンスが大きく変わったわけではありません。以前から私は、基本的にすべての仕事をいったんはメンバーに任せることにしています。全部任せて、どこまでできるかを確認して、その人がやり切れなかった部分を私が引き取ります。もちろん、何をどこまで任せるかは、メンバーの適性や能力によって変わります。既成の枠組みにとらわれずに新しいことをやれる人、ブレない信念を持ってやり通す人。おもに2人の「リーダータイプ」の社員に直接私のノウハウを教え、リーダーを任せていきました。

私を含め、オーナー社長の多くは「自分がいなくても回る組織」をつくろうとしています。私は、会社の株式の過半数を保有する株主でもあります。私より優秀な人が成果を出してくれるのであれば、株主としてはそのほうがうれしい。だからこそ、一度は丸投げして、メンバーがどこまでできるかを確認しながら仕事を任せていくのです。

ただし、丸投げしてほったらかしにするとうまくいきません。問題が起きていないか常にチェックしなければなりません。「何か問題があったら報告して」という姿勢は、リーダーとして間違っています。メンバーの中には自分の失敗をごまかそうとして報告しない人もいますし、そもそも問題が発生していることに気づかないケースも多いからです。部下は、問題を発見できないからこそ部下であるともいえます。

メンバーに任せた仕事がうまくいっているかどうかは、本人からの報告に頼らずとも、KPI(重要目標達成指標)を見ればすぐにわかります。組織として成果を上げるためには、正しいKPIを設定することが最も重要だったのです。

Webマーケティングの部署では、チームの目標を個人に落とし込んで、メンバー一人一人にKPIを設定しています。当社では、私を含めたリーダーたちで話し合い、そのKPIを頻繁に変更しています。

会議では、そのKPI設定のもとでメンバーが「どんなズルができるか」を必ず確認します。KPIが間違っていれば、会社はどんどん間違った方向に進みますから、正しい設定になるまで改良を続けなければいけません。個人のKPIは部分最適であり、全体最適と相反する可能性があるからです。

たとえば、新規の集客人数をKPIとして設定した場合、「初回半額キャンペーン」を実施すれば、同じCPO(顧客獲得コスト)でより多くの人を集めることができます。集客人数という個人のKPIは達成できますが、その分、売り上げや利益は減ってしまいます。そこで、集客人数をKPIにする場合には条件をつけます。一人のお客様から獲得できる1年間のLTV(顧客生涯価値)から利益を差し引いた金額をCPOの上限にしています。

試行錯誤のうえに、私たちがようやく正しいKPIを設定できるようになったのは約2年前のことです。それまでは、メンバーから「順調です」という報告が上がっていたにもかかわらず、全体の状況は悪化する一方でした。仕事を任せたあと、状況がどうなっているかを確認できる仕組みがなければ、たとえ失敗に突き進んでいたとしても気づくことができないのです。