BMI25 以上の肥満者の割合は男性31.5%、女性21.1(令和5年「国民健康・栄養調査」)。抗加齢医学を研究する伊藤裕さんは「メタボによって引き起こされる高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病はサイレントキラー(沈黙の殺し屋)と呼ばれ、放置しておくと、腎臓病、脳卒中、認知症や心筋梗塞、心不全などを起こす」という――。

※本稿は伊藤裕『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

脂っこいものでコレステロール値が悪くなるというのは誤解

【1】脂質異常症

悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が血管に蓄積すると、動脈硬化症が起こります。血管の内径が小さくなって血液が通りにくくなったり、血管の内側を覆っている内皮細胞が弱くなり、血栓ができて詰まったり、また「炎症」が起こって破れやすくなります。欧米の死因の第1位の狭心症、心筋梗塞を起こしますし、血圧が上がりやすい日本人では脳梗塞や脳出血がかつては死因の第1位でした。

太ったビジネスマン
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肥満や脂っこいものを食べると悪玉コレステロール値が高くなると思われている方も多いのですが、これは誤解です。悪玉コレステロールの値は、かなりの部分が遺伝的に決められています。体重を減らしても悪玉コレステロールの値は下がることはありませんし、痩せている方でも悪玉コレステロールが高い方はたくさんいます。悪玉コレステロールが高い方は、両親のどちらかが高い場合がほとんどです。

はっきり原因がわかっている遺伝病としては、LDLコレステロールを結合して細胞の中に入れる“受け手”である、LDLコレステロール受容体と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の異常がある病気です(家族性高コレステロール血症)。血中コレステロール値が160mg/dL以上あると要注意ですが、現在ではコレステロールを下げる強力な薬剤が開発されて、うまく下げることができるようになっています。しかし、かつては家族性高コレステロール血症の方ではコレステロールの値が500以上1000にまで達し、20歳代で心筋梗塞で亡くなる方が多数いました。

コレステロールは体の中に蓄積し、心臓病を引き起こす

コレステロールは、排除されることなく年々確実に蓄積していくので、将来どれだけ血管に蓄積していくか予測することができます。一般的に、全身の血管にコレステロールが60gほど蓄積すると心臓病が起こるとされています。遺伝子は両親からそれぞれ受け継ぎ、1対、二つずつあります。その両方の遺伝子に異常のある人では、この蓄積の値に12.5歳で到達し、片方の遺伝子に異常がある人では35歳で達すると計算されています。まさに「負債病」の代表であり、「コレステロール負債」といえます。

遺伝病というと、まれな疾患と思われがちですが、二つある遺伝子のどちらかに異常がある方は500人に1人といわれています。コレステロールの高い方は迷わず薬を飲まれることをお勧めします。