※本稿は伊藤裕『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
「見えにくくなった」という視力低下から「老化」を実感
60歳頃の第二のピークを迎える頃には、実際に体の調子がやはりおかしい、とはっきりと自覚する負債が芽生えてきます。いくつかの例を紹介します。
【1】「小さい文字が見えにくい」視力負債
最近近くのものが見えにくくなってねえと嘆き、実際、細かい文字の文章は避けるようになることは、50代を過ぎると多くの方が経験します。その時、生まれて初めて自分の老いを口にする人も多いと思います。しかし、自分も年だ、と冗談半分に軽く言っているうちは、真剣に老化を考えているわけではありません。老眼鏡をかければ見えるかもしれませんが、この症状をスルーしてはいけません。
老眼は40歳頃から起こり始めています。われわれの眼は、水晶体というレンズの厚さを変えて、さまざまな距離のものから来る光が網膜の上にちょうど届くようにして、ピントを合わせしっかりと見ています。水晶体は遠くを見る時は薄くなり、近くのものを見る時は厚くなります。この水晶体の厚さは、水晶体を支える毛様体と呼ばれる水晶体を取り巻き支えている筋肉が調節しています。毛様体筋が収縮すると水晶体の円周が小さくなり、水晶体は厚くなり、毛様体筋が弛緩すると円周が大きくなり、水晶体は薄くなります。このように水晶体が厚さを変えられるのは、水晶体が弾力を持っているからです。この弾力性が年とともに失われて硬くなっていきます。その結果、近くのものが見えにくい老眼が進行していきます。
「老眼」の初期にありがちな4つの症状
初期の症状として他に、
・夕方や暗い時に見えにくくなった
・目が疲れやすくなった
・読書やパソコン作業で肩が凝るようになった
・本やパソコン、スマホの画面の文字の読み違いが多くなった
などがあります。
なんとか近くのものを見ようとして、毛様体筋は一生懸命に収縮し、疲労を起こし、その結果、収縮する力が衰えていきます。残念ながら水晶体が硬化することを元に戻すことは難しいです。ですから、まだ水晶体が弾力性を持っている間に、老眼のこれらの症状に気付き、なおざりにせず、毛様体を疲労させず、鍛えるようにすることが、老眼を遅らせることにつながります。
・部屋と手許の両方を明るくするために、天井灯とスタンドを併用する
・パソコンのディスプレイから30cm以上目を離し、1時間に一度は休息する
・デスクワークの間に時々視線を遠くに移し、ピントを合わせることを繰り返す
などが毛様体の疲労回復法、あるいは目の筋トレになります。
その他に、
・眼精疲労を回復させるといわれている、アスタキサンチン(サケ、エビに多く含まれる)や、アントシアニン(ブルーベリーに多く含まれる)、ルティン(ほうれん草やブロッコリーに多く含まれる)などを食事に加えてみる
こちらも一法です。もちろん、
・良質な睡眠を取ること
も大切です。
毛様体の筋肉の衰えは、まさに視力負債の始まりで、全身の筋肉の衰えの現れです。視力の衰えは、全身の筋肉の衰えと相まって転倒事故を増やします。また知覚情報の70%は視覚情報なので、その不足は認知症にもつながります。