最大のハードルは「他人を信頼できないこと」
ここまで、「他者」を通じてリスキリングを進めることを論じてきました。この「他者」との関わりを考えるとき、日本にもう一つ大きなハードルがあることをお伝えしなければいけません。それは、日本人が、「世界一、他人を信頼しない」ということです。
「大人の学びの貧困国」である日本は、同時に「つながりの貧困国」でもあるということが、種々のデータから示されています。極めて「孤独」な人、つまり他者とのつながりが希薄であるということです。例えば、OECDがまとめている「同僚や友人との付き合いが無い割合」のデータを見ると、男性は1位、女性は世界2位。極めて他者との交流が少ない国です。
さらに世界価値観調査のデータを見ると、「初めて会う人をどの程度信頼するか」という意識を見ると、日本の男性は81カ国中77位、女性は72位と世界的に最も他人を信頼しないグループに属します。
さらにデータを操作して、「既知の知人」への信頼と、「初めて会う他人」への信頼のギャップを見ると、日本はそのギャップが世界3位でした(ちなみに1位はアルバニア、2位は中国)。日本は、「知人」と「他人」に極めて大きな信頼ギャップが存在する国、つまり「知っている人は信頼するが、知らない他者を全く信頼しない国」なのです。
「問題意識がない」ことの深刻さ
世界でもトップクラスのこうした「他者への信頼の無さ」は、言い換えれば、日本人が「社会開拓力」を持っていないことを意味します。元々知り合いではない人たちと新しく信頼関係を築いていくこと、大人の学びにとって重要な他者とのつながりを作っていくことが、この国の国民は極めて苦手だということです。
しかもさらなる問題は、こうした他者への信頼の欠如は、日本人にはとっくに「当たり前」のことになっていることです。私たちは、電車や町中で人に話しかけたりしないことを当然のものとして生活し続けていますが、海外旅行に行けば多くの人が話しかけてきます。もはや他人に話しかけて「社会開拓」などわざわざしなくても、SNSやオンラインゲーム、音楽や映画のサブスクリプションなど、インターネットを通じた各種のエンターテインメントによって、ある程度楽しく暮らせてしまいます。