成長チャンスの裏にあった危機

2020年のコロナ禍による緊急事態宣言を受け、休校に踏み切る学校が全国に広がるなか、オンライン教育への注目度は高まった。各種のオンライン教育のコンテンツやプラットフォームなどを提供する事業者のあいだでは、休校期間の学習の継続をサポートしようと、サービスの無償提供に踏み切る動きも相次いだ。

ノートパソコン
写真=iStock.com/baona
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オンライン教育ツールにとってコロナ禍は、期せずして生じた試用機会ともなった。しかしスタサプは、そこで慎重に動く。2020年の3~4月に学校向けサービスの無償提供に乗り出すが、提供対象とする学校や自治体の数にはあらかじめ上限を設けていた。制限を付けたのは、利用者が急増し、サーバーに過度の負担がかかるとシステム障害が起きかねないからだ。従前からの会員による利用増も予想された。実際にこの時期、スタサプのトラフィック(転送データ量)は前年比で20倍以上に急増している。

オンライン教育への関心の高まりは千載一遇のチャンスだが、サービスの安定供給がともなわなければ、逆に信頼を損ないかねない。スタサプの技術チームは、トラフィック増に対応するためのシステム改修を急ぐとともに、新機能の開発作業を一時的に停止。営業チームは全国の導入校に利用時間の調整を依頼し、トラフィックの平準化を図った。日頃の営業担当者によるフォローを通じて信頼感を培っていたこともあり、学校向け事業ではトラフィックの平準化への協力がスムーズに得られた。

このようにしてスタサプは、ピーク時のシステムへの負荷を減らす各種の取り組みを重ねることで、利用者急増という機会の裏にあったシステム障害の危機を乗り切った。

変化を追い風に変えるマネジメント

スタサプは、日本におけるオンライン動画授業サービスの先駆者である。スタサプにとってコロナ禍は、それまでに蓄積してきたノウハウや信頼を活用し、事業を拡大する新たな契機となった。

2020年度の有料会員数倍増という結果だけを見ると、まるでスタサプの事業が一直線に成長してきたかのようにも見える。しかし担当者たちにとっては、その時々において最善と思われる意思決定を繰り返し積み重ねてきた結果だった。情報を集めては市場環境の変化を振り返り、懸念点を洗い出しては進むべき道を選択するなかで、コロナ禍の日々の間にもスタサプ事業は拡大していった。