事例3 「まるで輸入食品」サヴァ缶

「サヴァ(Ça va?)缶」は、「まるで輸入食品」で従来のサバ缶の常識をひっくり返したヒット事例だ。サバ缶といえば「和風で低価格」が当たり前で、シニア層が好んで食べるものというのが定番イメージだった。それを「洋風で高価格」で、若年層も食べたくなるものとして一新した。

サヴァ缶は、魚のサバと、フランス語の「Ça va?(サヴァ/元気ですか?)」をかけて、被災した岩手から全国へ「元気?」と呼びかけるイメージで名付けた商品だ。東日本大震災で被災した漁業従事者を支援するため、被災地の食に関わる産業支援を目的に設立された「東の食の会」、岩手県の特産品を販売する岩手県産、食品製造販売を手掛ける岩手缶詰の三者の手で生み出された。

復興支援のため、漁獲量や単価が安定しているサバの缶詰商品を全国に販売することを「東の食の会」が提案したことをきっかけに、商品開発がスタートした。商品の核になったのは、地元の美味しいサバを、「安くお得に」ではなく、しっかりと高い付加価値の商品にする方針だ。作り手たちの支援となるためには、品質に見合った高い価値を創り、利益をもたらす必要があったためである。高価格でも、食べた人に満足してもらえれば、受け入れてもらえると考え、ヨーロッパで広く食べられている「イワシの油漬け」にならい、「サバのオリーブ油漬け」という高品質・高価格の商品を開発した。

魚のイラスト
写真=iStock.com/Stefan Nikolic
※写真はイメージです

ド派手な海外風デザインと洋風の味付けがクチコミで広がりヒット

和風の味付けで100円程度の安価なイメージのサバ缶を、洋風の味付けで360円という思い切った高価格、そして、まるで輸入食品に見えるド派手なパッケージの尖った海外風デザインの商品が作られた。周囲から「こんなの売れるわけがない」と何度も言われ、不安視する声は多かったという。実際、発売から数カ月は販売に苦戦したが、食べてみた顧客の評価は高く、じわじわとクチコミで広がり、さらに、女性誌やTVメディアの「サバ缶」ブームの波に乗ることでヒットしていった。

栄養価が高くて美味しく、病気の予防や体質の改善にも有効で、健康や美容に効果的な栄養食品としてサバ缶が注目を集め、魚介類缶詰の市場で不動のトップだったツナ缶の販売数を追い越すほどのブームとなった。その追い風も受け、健康志向が高く、こだわりを持った若年層を取り込むことに成功した。輸入食品のように見えて、岩手県産のサバを使ったメイドインジャパンのサヴァ缶は、そのままで食べても美味しく、アレンジレシピも豊富に展開できると人気だ。復興支援の様々な取り組みが、継続させる難しさに直面する中、サヴァ缶は、2013年の発売から販売数1000万缶を突破し、ヒット商品として定着している。

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