多くの日本企業が陥る「完璧主義の罠」
「何を重視するか」を変えれば、マーケティングは一新できる。
「最初から完璧」であることを当然視する価値観は、モノづくりに限らず、日本のビジネスに広く浸透している。この完璧主義は、日本のビジネスの強みでもあり、弱みにもなっている。完璧主義には、粗も隙もなく仕上げた商品・サービスで顧客の信頼を獲得できるという強みがある一方で、完璧を求めるあまり開発期間が長期化したり、リスクを避け、前例のない新分野を開拓する取り組みには手を出さなくなったりする弱みも抱えている。
多くの日本企業が、「最初から完璧」だからこそ成功できた過去の成功体験に縛られ、常に完璧を求めすぎるようになってしまい、その結果、新しいことや面白いことに挑戦できなくなり、身動きが取れなくなっている。しかし、こうした「完璧主義の罠」から意図的に抜け出し、ヒット商品の実現に成功した事例が出てきている。
「100点満点じゃないと認めない」を覆した商品開発
【事例1】アサヒビール「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」
缶を開けると自然に泡が立ち、生ビールの味わいをどこでも楽しめるアサヒビールの「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」は、「100点満点じゃないと認めないという従来の開発方針だと、絶対に生まれなかった商品」(※1)と開発チームが口にしているように、完璧主義の罠から抜け出すことで誕生したヒット商品である。
※1 アサヒビール採用サイト「生ジョッキ缶開発ストーリー<クロスオーバー編>」より引用。
「店で飲む生ビールが家でも楽しめたらいいのに」というニーズは、誰もが一度は感じたことのあるものだ。しかし、技術的にクリアできず、「仕方ない」とずっと諦められてきた。「自宅で楽しめる生ビール」のポイントになる泡を、専用装置やホームサーバーではなく、一番手軽な缶で実現するというのは、難攻不落の課題だった。なぜなら、もともと缶ビールでは、缶を開けたときに泡が立たないことが品質上望ましく、泡が立つのは不良品とされていたからだ。缶を開けると生ビールのように泡が立つ「生ジョッキ缶」を実現するには、これまでとは正反対の設計が求められることになり、開発は困難を極めた。