「加点型マーケティング」で成功した日本のアイドル

【事例3】日向坂46

iPhoneやAmazon、DJIのドローンやTikTokなど、アメリカや中国のベンチャー企業が実現してきたヒット商品・サービスの多くは、完璧主義の罠から抜け出し、「加点型マーケティング」を実践することで成功を収めている。加点型マーケティングとは、商品の新しい価値や強み、面白さを重視して、必要最低限の品質に仕上げたらいち早く発売し、支持してくれるファンを作り、ファンに応援されながら商品の改良・再発売のサイクルを高速で回すものだ。商品は、「最初から完璧」ではなくとも、ファンと共に成長することで、「最後には完璧」な理想の商品を目指すことができる。

じつは、このプロセスを実践して成功を収めた、とても身近な事例が日本にもある。それは「日本のアイドル」だ。モーニング娘。やAKB48グループ、坂道シリーズなどの日本のアイドルの中で、特に「日向坂46」は、苦難を乗り越えた成功の物語を発信できる意味でも、加点型マーケティング、ファン・マーケティング、ストーリー・マーケティングなど、最先端のマーケティングを通じて分析することができる成功事例だ。ただし、「初めから意図した」というよりも、「結果から分析できる」という点には留意しておきたい。

シングルCDデビューも冠番組もないまま活動をスタート

最初から完璧な存在ではなく、未成熟なままデビューして、応援してくれるファンを増やしながら、長所を伸ばしてファンと共に成長を遂げ、その成長の物語がエンジンとなることでさらに活躍を広げる。この日向坂46の軌跡は、アメリカのGAFA、中国のBATHをはじめとする世界のベンチャー企業の飛躍プロセスに重ね合わせられる、マーケティング的な示唆に富んだ事例と言える。

もともと日向坂46は、欅坂46(現、櫻坂46)の姉妹グループのような立ち位置で集められた「けやき坂46(ひらがなけやき)」からスタートした。けやき坂46は、同じ坂道シリーズの先輩グループとは違ってシングルCDデビューや冠番組が決まっていない状態で、先の見えない長い苦悩の日々を経験した。当初は、歌や踊りのレッスン機会すら十分ではなく、自分たちが何を期待されているのか、どこを目指せばいいのか分からないまま、アイドルとしての一歩目を歩き出すことになった。華々しく活躍する先輩グループたちの陰で、握手会では自分たちの所にだけほとんど誰も来てくれず、ライブでも数曲しか歌えないなど、悔しい経験を積み重ねた。

ステージ上のクローズアップされたマイク
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです

多くの日本のアイドルが、多かれ少なかれ苦難を経験しているものだが、姉妹グループが華々しく活躍する傍ら、比べられ、取り残されたかのような形で始まった、けやき坂46の苦難は特殊なものだったと言える。いわば「0からのスタート」ではなく「マイナスからのスタート」で、自分たちが独立したグループなのか、先輩グループの控え的な立ち位置なのかもあやふやな中、存在理由に思い悩んだ。