事例2 日本家電の常識を覆した「バルミューダ」

「まるで欧米ブランド」と聞いてパッと思い浮かびやすいヒット事例として、家電ブランドのバルミューダもあげられる。バルミューダは、「まるで欧米ブランド」で日本家電の常識を覆す快進撃を続けている。

2003年に創業し、東京都武蔵野市に本社を構えるバルミューダは、自らを「クリエイティブとテクノロジーの会社」と表し、高品質でオシャレなデザイン家電で人気を集めている。創業時はノートパソコン用の冷却台やデスクライトの開発・販売をしていたが、2009年のリーマン・ショックの苦境を機に、独自の技術で自然の風を再現した扇風機「The GreenFan」を開発して一躍注目を集めた。

世界で1番美味しいトーストが食べられる体験を提供する「The Toaster」、前後だけでなく自由自在に動ける掃除機「The Cleaner」をはじめ、キッチン・空調・オーディオ・照明など商品展開を広げている。基本的には1つの商品に対して「BALMUDA The……」という1モデルのみで、相場を大きく上回る高価格設定が貫かれている。

「シンプル・イズ・ベスト」の価値が顧客の支持を集める

バルミューダの特徴として、自社工場を持たず国内外の工場に製造委託し、自社は設計やデザイン、ブランディングなどに専念している点がある。そうして生み出す商品は、「顧客にどんな体験を提供できるか」を重視している。だから、「The Toaster」の商品ガイドブックの表紙には、商品ではなく、焼き上がったトーストの写真が採用されている。顧客に届けたい体験を実現するために、「選択と集中」を徹底したモノづくりで、「シンプル・イズ・ベスト」といえる価値を突き詰めた商品を生み出し、顧客に支持されている。

日本の多くの家電メーカーは、商品の開発・改良にあたって多機能化を追い求めやすい。その結果、「いらない機能が沢山あって、値段が高い」という評価を受け、高品質ではなく、過剰品質な商品に陥って失敗するケースが少なくない。それに対してバルミューダは、逆に機能を絞り込み、そこで最高品質を創りあげることに専念している。多機能ではなく絞り込んだ高機能と高デザインで、高価格でも納得して選ばれるオシャレ家電になっているのだ。

家に招いたお客に自慢したくなる、欧米ブランドを彷彿とさせるクールなデザインで、なおかつ日本ならではの高い機能性と細部までこだわり抜いた設計が共存している。デザインと機能性の両立によってバルミューダは成長を続け、創業初年度には600万円だった売り上げを、2021年は約180億円、じつに3000倍にまで飛躍させている。