なぜ薬物犯罪はなくならないのか。元厚生労働省麻薬取締部部長の瀬戸晴海さんは、「ネットでは、未成年者を含め誰もが気軽に薬物を購入できる。SNSや掲示板では、摘発をかいくぐるため、親世代には意味のわからない隠語や絵文字を使った売買が行われている」という。その実態を瀬戸さんの新著『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)より紹介する――。(3回目)
自宅でスマートフォンを見ている子ども
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです

Twitterで繰り広げられる薬物売買の実態

ネットにおける密売の実態について、いくつか分かりやすい写真(一部加工済み)をお見せしながら解説しましょう。まずは写真1をご覧ください。

【写真1】ツイッターのスクリーンショット
【写真1】(『スマホで薬物を買う子どもたち』より)

これはツイッター上に掲載された、オーソドックスな大麻の販売広告です。「野菜・手押し」で検索すると、こういった広告が無数に登場します。先頭に「#(ハッシュタグ)」を付けて検索するとよりピンポイントで広告にたどり着きます。まずは、このメッセージを読み解いてみましょう。

一見して分かるのは、投稿されたメッセージのなかに、「大麻」や「マリファナ」という直接的な表現が存在しないことです。ご覧の通り、すべて隠語で記されています。

最上段の〈smoke○○〉は、この業者のアカウント名(出品者名)。その下に〈テレグラムまでお願いします〉とあります。続いて、テレグラムのID〈ID@smoke……〉が記されている。最近では、あえてテレグラムという言葉も使わずに、IDのみ付記する場合もあります。

こうした取引において秘匿性の高いアプリでやり取りすることはすでに常識となっており、薬物売買に慣れた客はこのメッセージを見るだけですべてを理解できるわけです。

「ストロベリー」、「AK47」が意味すること

それ以降の内容について触れていきましょう。〈ストロベリーog〉とは大麻のブランド銘柄を指し、欧米のプロ栽培者(グロアー)によって品種改良された大麻の一種です。学術的に命名されたものではありませんが、大麻業界ではひとつの品種名として知れ渡っています。

この「ストロベリーog」以外にも、大麻には「ブルーベリー」「オレンジクッシュ」「マスタークッシュ」「ハワイアントップ」「シルバーヘイズ」「スーパーレモンヘイズ」「ホワイトウィドウ」「パイナップル」「ゴリラグルー」「M3」「AK47」など、非常に多くの“ブランド品”が存在します。

こうしたブランド品は、いずれも、大麻草に含まれる幻覚成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」の含有濃度が高くなるよう改良されたもの。

ただ、使用した際のリラックス感や陶酔感をもたらす効果には少しずつ違いがあるようです。喩えるなら、トマトや柑橘類の改良に近いでしょうか。農家ではより風味が良く、甘みや旨味の高いものが研究・開発されていますが、これは大麻の栽培においても同様なのです。