評判が評判を呼びさらに多くのメンバーが知る

このように、消費者イノベーターがコミュニティ・メンバーに製品イノベーションを開示することで複数の消費者が同イノベーターの活動に関心を持つようになる。そしてその製品が多くのメンバーにとって価値ありと評価された場合、評判が評判を呼びさらに多くのメンバーが知るところとなる。

一部の消費者は同製品を本人に頼み作ってもらったり、自分で複製品を作ってみたりするかもしれない。この段階までくれば消費者イノベーターの活動は同じ製品分野のメーカーの視野に入っていることになるだろう。

筆者のデータもここで紹介した現象が実際に起こっていることを示唆している。日本の消費者イノベーター585名を対象にした調査で以下の3つの仮説が支持されている。

第一の仮説が「自分がイノベーションを行った製品分野に関するコミュニティに所属する者は、そうでない者よりも他の消費者に手助けしてもらっている」。第二の仮説が「他の消費者に手助けしてもらっている消費者イノベーションはそうでないイノベーションよりも仲間や企業によって複製されたり、市場化されている」。第三の仮説が「自分がイノベーションを行った製品分野に関するコミュニティに所属している者が行ったイノベーションは仲間や企業によって複製されたり市場化されている」だ。

さらに追加的に筆者が分析を行った次の2つの仮説も統計的に支持されている。1つ目が「コミュニティに属する消費者イノベーターが他者の手助けを得て生み出した製品は仲間や企業によって複製あるいは市場化されている」で、2つ目が「コミュニティに属さず、単独で行った消費者イノベーションは仲間や企業によって複製あるいは市場化されていない」というものだ。

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図表2 仲間・企業に製品イノベーションを複製・市場化された消費者イノベーターの割合(N=437)

こうした結果は消費者イノベーションを製品アイデア創造過程に取り込みたいと考えるメーカーにとって、自社や自社の製品分野に関わるコミュニティが重要であることを教えてくれる。

確かに「コミュニティ」という単位で消費者イノベーターを把握すればそこでは消費者イノベーションが可視化されている可能性は高いし、イノベーターが「一発屋」かどうかは大きな問題とならなくなる。その意味ですでに自社製品のコミュニティを構築している企業は消費者イノベーションの取り込みで一歩有利な状況にあり、そうでない企業はコミュニティづくりが最初の課題になるのかもしれない。

ただしコミュニティという視点が万能薬になるとは限らないことを最後に指摘しておかなければならない。日本の585名の消費者イノベーターを対象とする調査によれば、コミュニティ所属者は全体の7.4%、他者から手助けをしてもらった者もわずか12%だった。コミュニティと無縁の多くの消費者イノベーションが依然として本人のレベルにとどまっているのだ。そうした地下に眠る宝を掘り出すための有望なアプローチは何か? エキサイティングな宿題はまだ多く残されているのだ。

(図版作成=平良 徹)