シェンゲン条約であらゆる移動が自由になったEU
1月後半に外務省の講師派遣事業の講師として北欧3カ国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)を回った。
成田からパリ経由で(パリから2時間ほど)最初に到着したコペンハーゲンは暖冬のために雪が積もっておらず、東京より暖かく感ぜられるほどであった。コペンハーゲンから1時間ほどのフライトでオスロへ、さらにオスロから1時間ほどでストックホルムに到着する。オスロとストックホルムの空港は一面銀世界で、気温も氷点下となっていた。
イギリスを除くほとんどのEU諸国が加盟しているシェンゲン条約によって、EU内ではパスポートのチェックなどの入国審査を受けることなく入国できる。EUに加盟していないノルウェーもシェンゲン条約を締結していることから、これらの3都市では、飛行機から入国審査を通らずに空港の外に出られた。
ただし、EUに加盟していないノルウェーはもちろんのこと、EUには加盟しているが、自らの国民投票でユーロの導入を否決したデンマークとスウェーデンでは、ユーロではなく、それぞれに自国の通貨が使われているために、これらの3カ国を回る間に、入国のたびに両替をしなければならず、両替のための時間と手数料がかかった。
北欧3カ国のそれぞれで、現地の日本大使館員から異口同音に、かつて安全だった北欧の街にも東欧からの窃盗団がやってきて、スリなどの被害が増えているので、気をつけるようにと注意があった。
これまでのように南欧や東欧だけではなく、北欧でもそうなりつつあるとのことを聞いて、驚きを隠せなかった。それは、シェンゲン条約によって入国審査なしにヒトの移動が自由になったことの副作用かもしれない。
通貨統合を説明するための「最適通貨圏の理論」によれば、通貨統合が成功するための一つの条件としてヒトの自由な移動が強調されている。これらの北欧3カ国はいずれもユーロを導入しているわけではないが、EU(ノルウェーの場合、EEA<欧州経済領域>協定)の下、モノの自由な移動ばかりではなく、ヒトの自由な移動も進められてきた。
ヒトの自由な移動により、EUパスポートを持つ労働者はビザなしでEU(+ノルウェー)内で自由に移動して働ける。北海油田を抱える石油輸出国のノルウェーでは、物価が高いために、物価の安い隣国のスウェーデンに住んでオスロに通勤する人もいるそうである。