「最後の晩餐」をモチーフにした絵は無数にある。そのなかでなぜレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」がこれほど有名になったのか。東京造形大学教授の池上英洋氏は「それまでは裏切り者のユダを1人だけテーブルの手前に描くのが一般的だった。イエスと12人の弟子を横一列に並べる構図は斬新だった」と解説する——。
※本稿は、池上英洋『大学4年間の西洋美術史が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」は何がすごいのか
数々の奇跡を起こしたことで、イエスの教えは多くの人々に広まっていきました。そして、イエスと行動をともにする12人の弟子も現れます。ですが、人々から救世主と見なされたイエスの存在は、当時のユダヤ教の司祭たちにとっては危険人物以外の何者でもありません。そこで、イエスを亡き者にしようと、司祭たちは弟子の1人であったユダを銀貨30枚で買収し、裏切らせます。
そんなこととは知らない他の弟子たちは、ユダヤ民族伝統の「過越の祭」の晩餐の準備を進めていました。そして、全員が席についた途端、イエスが「このなかに、私を裏切ろうとしている者がいる」と告げます。その衝撃的な言葉を聞いた弟子たちの間には動揺が走ります……。
新約聖書に記されたこの劇的な「最後の晩餐」は、その後のミサ(聖餐式)のもととなるもので、多くの絵画の主題となっています。そのなかでも、とくに有名なのはレオナルド・ダ・ヴィンチの作品でしょう。