発売11カ月で世界200万部、そのうち4分の1が日本で売れている(2019年12月時点)『FACTFULNESS』。同書は、私たちの世界に関する「勘違い」を「10の本能」に分類している。今回、その10の本能を現代ニュースに絡めて紹介していく。第5回は「ネガティブ本能」だ――。(全10回)
▼ネガティブ本能
「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み

人々は物事のポジティブな面よりもネガティブな面のほうばかり気にしがちだ。これをロスリングは「ネガティブ本能」と呼ぶ。人々が悲観的になるのは、暗いニュースばかりが大々的に取り上げられて拡散されるためだ。ゆっくりとした進歩はニュースにはなりにくい。もちろん世界にはまだ解決されるべき問題が山積みだが、「悪い」と「良くなっている」は両立することを認識すれば、事実に基づかない悲観的な発想は抑えられる。

45年前のラッシュはもっと酷かった

「通勤ラッシュ」という言葉を聞くだけで、心がどんよりと暗くなる人も多いだろう。通勤時間帯は混み合う都心部の電車。自治体や鉄道会社は、混雑緩和の取り組みをしているようだが、特に効果があるように思えず、ストレスを倍増させていないだろうか。

このように、物事の悪い面にばかり目を向けてしまうのが「ネガティブ本能」だ。

これに毒され、世界はどんどん悪くなっている、満員電車は一向に改善されない、と思うのは間違いである。

ここでファクトをチェックしてみよう。45年前と比べれば、実は明らかに混雑は緩和されており、混雑率はどんどん下がっているのだ。

上のグラフは、国土交通省の調査による、東京圏主要31区間の平均混雑率と輸送力を示したものだ。1975(昭和50)年度の221%から混雑率はどんどん緩和されていき、2018(平成30)年度は163%に推移。58ポイントも改善されている。