「録音されてるかも」職場の雰囲気が悪化

秘書や職員へのパワハラ発言が明らかになって辞職に追い込まれた議員や市長がいたのは記憶に新しいところ。民間企業でも、パワハラから身を守るために会話をこっそり録音するビジネスパーソンが増えてきた。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/naotake)

録音が身近になり、パワハラの証拠を掴みやすくなったのは社会正義に資するだろう。だが、いいことばかりではない。労務問題に詳しい岸田鑑彦弁護士は「最近、会社側から社員による録音についての相談が増えてきた」と明かす。

「言質を取られることを恐れて自由な議論ができなくなり、職場の雰囲気が悪くなったという悩みをよく聞きます。また、営業秘密の漏洩を警戒して具体的な指示が出しにくくなるなど、業務に支障を来すケースも現れ始めました」

パワハラは困るが、職場が疲弊するのも困る。はたして、仕事中の録音はどこまで許されるのだろうか。

許可を得ない録音には、自分との会話を録る「秘密録音」と、自分がいない場での会話を録る「盗聴」に分けられる。実はどちらも録音する行為自体は直ちに違法ではなく、刑事責任を問われることはない。

ただし、録音した会話を公開すると脅して謝罪や金品を要求したら、強要罪や脅迫罪、恐喝罪、会話を公開して発言者の社会的地位を低下させたら名誉毀損罪にあたる可能性がある。

盗聴については、その前後に違法行為が伴うことが多い。たとえば無断で他人の敷地、住居やオフィスに入れば住居侵入罪や建造物侵入罪、トイレに盗聴器を仕掛けたら軽犯罪法違反の恐れがある。

無断録音は合法でも、社内で禁止にできる

録音行為自体が罪にならなくても、社内のルールとして禁止される場合もある。

「職場秩序上の問題があれば、会社が指揮命令権や施設管理権にもとづいて無断録音を禁止できます。違反した社員が指導後も録音を続けるなら、懲戒処分も可能です」

しかし、処分が妥当かどうかはケース・バイ・ケースだ。

「処分が妥当かどうかは、録音の目的や態様によって判断されます。たとえば自分への陰口をチェックするために盗聴していたら処分するのもわかりますが、パワハラや内部通報の証拠収集が目的で録音していた社員を処分したら、懲戒権の濫用と判断される恐れもあります」

パワハラの証拠収集のためでも、無制限に許されるわけではない。パワハラの実態がないのに「自衛のため」と常時録音するのは必要性が薄く、処分の対象になりうる。

岸田弁護士は、会社側にこうアドバイスする。

「就業規則に規定がなくても無断録音した社員への処分が認められた判例があります。しかし、明文なしに処分を行うと、それこそ『パワハラだ』『報復だ』と泥沼化しやすい。トラブルを防ぐために、事前に社内のルールを明確にしておくべきでしょう」

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(コメンテーター=弁護士 岸田鑑彦 図版作成=大橋昭一 写真=iStock.com)