人工透析の中止は尊厳死ではなく自殺
2018年8月、当時44歳の腎臓病患者が人工透析中止を選び、1週間後に死亡した。患者が診察を受けた病院では、過去に20人以上の患者が透析を中止あるいは開始せずに死亡しており、医療のあり方として適切だったのか議論を呼んだ。
患者が自ら死を選ぶケースは、安楽死、尊厳死、自殺の3つ。尊厳死と安楽死は混同されやすいが、薬物などで積極的に命を絶つのが安楽死、延命治療を中止して自然に死を迎えるのが尊厳死だ。
いまのところ日本において安楽死は違法で、手を下した医師は罪に問われる。ただし、「患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること」などの一定の要件を満たせば、違法性は阻却される(横浜地裁平成7年3月28日判決)。
一方、尊厳死はどうか。人工呼吸器を外すなどの延命治療の中止は現実に行われているが、現在まで医師が起訴された例はない。厚生労働省や関係学会が尊厳死のガイドラインを定めているが、それに従っているかぎり、医師が罪に問われることはないだろう。
問題は、今回の透析中止がガイドラインに則ったものかどうか。どのガイドラインを見ても、尊厳死が許されるのは終末期に限られる。一方、報道では、今回死亡した患者は透析を続けたら3~4年の生存が可能だったとされる。医療問題に詳しい谷直樹弁護士の見解はこうだ。
「死が目前に迫っているわけではなく、透析を受ければ翌日は元気に生活できたことを考えると、今回は尊厳死に当たらない。尊厳死でなければ自殺。手伝った医師は、自殺の教唆や幇助が疑われます」