家庭に児相・警察が介入できる法改正
しつけに名を借りた虐待事件が続発したのを機に、2000年施行の「児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)」が19年6月に改正され、併せて「児童福祉法」も一部が改正された。一部を除き20年4月から施行される。
改正の眼目は、「しつけ」の名目で親権者が児童に行う体罰の禁止を明文化したことだ。日本人初の「国連子どもの権利委員会」委員となった大谷美紀子弁護士が言う。
「委員会は、子どもの権利条約を批准したすべての国に対し、『体罰を法律で禁止せよ』と促しています。一方で日本には『体罰は教育上必要』という考えの人も少なくなく、『それは認められない』と明確に伝えることが今回の改正の第一の目的です」
特に児童虐待防止法の改正は「親であっても体罰は許されない」という国としてのメッセージであり、改正によって児童相談所(児相)や自治体、警察などが家庭内での虐待防止に向けて動きやすくなることが期待される。
民法では親権者が子どもを懲戒する権利を認めている。「子の利益のために(第820条)」「監護及び教育に必要な範囲内で(第822条)」とされているが、許される行為の線引きは明確ではない。
「これまでは虐待の通告を受けた児相・警察が家庭に介入しようとしても、『しつけだ』と親に強弁されて手が出せないという問題がありました」
改正後は、そうした親に対しても、「しつけであっても、体罰は許されない」「法律に書かれている」と言って堂々と介入できるようになる。
具体例を盛り込んだガイドラインで対応
体罰も虐待も、それじたいが処罰されるわけではない。犯罪としての処罰の基準は刑法であり、暴行罪・傷害罪にあたる場合は、家庭内で親によって行われたとしてもその責任は免れない。ただ、改正後の児童虐待防止法にも体罰の定義はないことから、具体的にどのような行為が体罰として許されないのかがわからないという不安の声もある。
国連子どもの権利委員会は、「どんなに軽いものであっても、有形力が用いられ、かつ何らかの苦痛または不快感を引き起こすことを意図した罰」を体罰としている。さらに「子どもをけなし、辱め、侮辱し、身代わりに仕立て上げ、脅迫し、こわがらせ、または笑いものにするような罰」も条約に照らして許されないとしている(図版参照)。
「しかし、体罰は許されないということを法律で明確にすることが目的ですから、まずは、法律で体罰の禁止を明記するにとどめ、省庁がガイドラインを作成し、親や関係機関の間で共通の理解を推進していくほうが望ましい。また、体罰を法律で禁止することに加え、体罰を使わない子育ての方法を広め、親を支援していくことが大事です」
当面は厚生労働省が望ましくない体罰について、具体例を盛り込んだガイドラインをつくることになりそうだ。