親子間の犯罪に警察は消極的
70代の元農林水産省事務次官が、引きこもりだった40代の息子を刺殺して逮捕された。容疑者の供述によると、息子から家庭内暴力を受けていたという。だからといって殺人は許されないが、加害者となった親にも被害者の一面があったことは否めない。
近年、80代の年金生活者が50代の子を養う「8050」が社会問題化している。子どもや中年の引きこもり現場に詳しい証拠調査士の平塚俊樹氏が、その実態を語る。
「いじめやレイプなど凄惨な事件をきっかけに不登校になる子どもは少なくありません。その意味で、引きこもりの子は被害者です。しかし、成人後も自立の意思を見せずに親にタカるようになると、もはや一方的な被害者とは言えない。親のクレジットカードを勝手に使ってインターネットで買い物をしたり、気に入らないことがあると暴力をふるうなど、加害者として家族を悩ませるケースも多い」
原則的に、親子間でも犯罪は成立する。親を殴れば暴行罪にあたるし、「殺すぞ」と脅せば脅迫罪だ。ただ、親子間の場合、警察は簡単に動いてくれない。「法は家庭に入らず」という法思想があり、家族間のトラブルは法が介入するより家族内で解決すべきだという考えが強いからだ。
「実際、痴漢や事故、殺人で多忙な警察はまず動きません」
顕著なのは、お金に関する犯罪だ。刑法には「親族相盗例」の規定があり、窃盗や詐欺、恐喝など一部の犯罪については、それが親族間で起きた場合、刑が免除される(刑法244条1項)。中年の引きこもりが親の年金を盗んだり、カードで勝手に買い物しても、子が処罰を受けることはない。
事件化するより相談窓口を活用
法による介入が期待できないとしたら、親はこうした子どもからどうやって自分の財産や体を守ればいいのか。
「クレジットカードは、番号とセキュリティコードを見られて好き勝手に使われるおそれがあります。最初からつくらないか、つくっても家に持ち込まないのが原則です」
家庭内暴力があれば、やはり警察の力を借りたい。ただし、やり方には工夫が必要だ。
「いきなり110番して事件化しようとすると、警察は及び腰になります。緊急でなければ、まずは警察の住民相談窓口で相談しましょう。警察では敷居が高いと感じるなら、市役所の市民相談や法務省の人権相談でもいい。行政の窓口に相談すれば、NPOや自立支援業者を紹介してくれるなど、何かしらのアドバイスを受けられるはずです」
法は家庭に入らずといったが、DV防止法や児童虐待防止法など、家庭内における犯罪行為に積極的に介入する法律もあり、最近は国による介入や支援が強化される傾向にある。親が子から受ける被害についても同じような法の手立てがあれば、警察や関係機関も動きやすい。悲劇が繰り返されないように、迅速な対応を望みたい。