「勉強さえしていればいい」という甘やかし
ケイタイの発信元を見た瞬間、「また何かあったな」と悪い予感がした。スバルくんのお母さんから電話がかかってくるときはいつもそうだ。
案の定、いつもの「先生、あの子を見てやってください! なんとかしてあげてください!」とすがる声。
中学受験が終わって、すでに4年がたっているというのに、スバルくんのお母さんは、困ったことがあると必ず私に電話をする。今回は1週間後にある英語の定期テストを見てほしいという依頼だった。そこで赤点を取ると進級できなくなるという。
スバルくんの家庭教師についたのは、小学5年生の時。3年生の頃からときどき電話相談を受けていたが、そのたびに転塾をくり返し、家庭教師をころころと変えていた。それでも一向に成績が上がらないので、最後の神頼みといった感じで、私に依頼が来たのだ。
スバルくんのお母さんは教育熱心だが、幼い頃から「あなたは勉強さえしていればいいのよ」と、スバルくんを甘やかしてきた。幼い頃は素直に言うことを聞いていたスバルくんだが、やがて立場が逆転し、お母さんの言うことを聞かなくなった。勉強をしたがらないのも、親に対する反発心からくるものだと感じている。
成績不振の原因は「親子関係」
しかし、お母さんはスバルくんの成績が上がらないのは、塾のせい、家庭教師のせいと決めつけ、思いつきでコロコロと方針を変える。成績不振の原因は、指導者ではなく親子関係であることに気づかない。
スバルくんは努力を嫌う。世間では、中学受験の勉強は詰め込みと思われているが、単に暗記や公式に当てはめるだけでは解けない。答えにたどり着くまでには、ああでもない、こうでもないといくつもの試行錯誤が不可欠で、それこそが中学受験の学びの良さだと思っている。それには単に知識を蓄えるだけでなく、考え続ける努力が必要だ。
ところが、スバルくんは少し考えたふりをして、「で、答えは何?」と聞く。スバルくんに限らず、地道に努力をする経験をせずに育った子の口癖だ。そういう子は自分で考えようとせず、答えだけを求める。
中学受験では難関校になるほど、難度の高い思考力が求められる。スバルくんのお母さんは、スバルくんを東京の名門校・麻布中学校に入れたがっていたが、考えることが嫌いなスバルくんには到底届かない。長文で、小学生が知らないテーマを出す麻布中の入試問題は、未知への好奇心と「最後まで解いてみせるぞ!」という強い意志と粘りがなければ、解けないからだ。