中学受験塾などは「夏休みは受験の天王山」と言う。だが、プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんは「天王山というのは塾のあおり文句にすぎない。夏休みに頑張りすぎて秋に心や体を崩す子もいる。勉強をやらせすぎてはいけない」と指摘する――。
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「受験の天王山」という言葉で肩に力が入る親たち

小学生の夏休みといえば、海に、プールに、キャンプ……。40日間も遊んで暮らせるなんてうらやましいと多くの大人たちは思うだろう。だが、中学受験を目指す小6生には、過酷な夏が待ち構えている。

入試まであと半年。夏休みは受験勉強だけに全力を注げる貴重な時間。そのため、中学受験業界では、6年生の夏休みを“受験の天王山”と呼んでいる。こうした言葉を耳にすると、穏やかではいられなくなるのが親たちだ。夏休みは成績アップを狙うラストチャンスと思い込み、肩に過度な力が入る。

多くの中学受験塾の場合、中学受験の勉強は小学3年生の2月から始まり、6年生の夏前に入試で必要な学習範囲を一通り終える。そして、6年生の夏休みからは演習量を倍増させ、入試問題に慣れる特訓をする。つまり、これまでのインプット型の授業から、アウトプット型の授業に切り変わるのだ。

6年生の夏期講習は、小学校の夏休みがスタートすると同時に始まり、お盆前まで続く。お盆後の20日過ぎまで授業を組み込んでいる塾も多い。授業は演習ー解説の繰り返しの形態をとる。演習の内容は、これまで学習してきた範囲の総復習になる。だが、その内容はかなり難しい。特に難関校に強い塾では顕著だ。例えば関東御三家志望の子に灘中を中心とした関西系の難問を課す。そうするのは、ここでダレずに入試まで危機感をもって勉強してほしいという塾側のおどしの意図があるのだが、多くの子は心が折れる。

追い込みすぎると子供の学習意欲が下がっていく

授業中にすべてを解くことは到底できない。だが「手を付けた問題は一問だけでも絶対に正解をさせるぞ!」という気持ちで向き合うことが大事だ。その姿勢が入試で生きてくる。6年生の夏以降は、1点でも多く点を取るための勉強に変えていく必要がある。

ところが、多くの親はモレなく勉強をさせたがる。夏休み中は毎日講習があり、塾の帰りも遅い。授業の後は復習が不可欠だ。加えて、塾では大量の宿題を出す。これらをすべてやること自体が不可能なのだが、多くの親たちはやらせないといけないと思い込んでいる。特に中学受験で重要科目といわれる算数に力を入れたがる。

塾から渡される宿題は難問も多く時間がかかる。そのため、子供は夜遅くまで勉強することになり、夏休み前よりも睡眠時間が短くなる。睡眠時間が足りない子供は体調を壊し、学ぶ意欲が低下していく。

やっても、やっても終わらない。
やっても、やっても分からない。
子供から笑顔が消えていく。