「ユーチューバーになりたい。ラクして稼げるから」

結局、スバルくんは偏差値が麻布より20低い中堅校にギリギリ合格し進学した。しかし、入学後すぐに勉強についていけず、お母さんから「困った」の電話がかかってきた。「ダメ息子を叱ってほしい」と言う。

勉強へ向かわせる動機付けに、「スバルくんは将来、何になりたいの?」と尋ねてみた。将来像があれば、その夢を叶えるために、今やるべきことがわかり、勉強も頑張るのではないかと思ったからだ。

ところが、スバルくんの口から出た言葉は、「ユーチューバーになりたい。だって、ラクして稼げるから」

今でこそ、小学生の男の子が将来なりたい職業の上位にランクインするユーチューバーだが、当時はまだ珍しく、意表を突かれた感じだった。でも、スバルくんは、勉強はしないけれど、ユーチューバーにお金が入る仕組みはよく知っていた。だからといって、今何かを発信しているわけではない。単にラクに稼げそうだから、「ユーチューバーになりたい」と言っているのだ。

そう思っているのは今だけで、やはり日々の努力が大事であることを伝えた。しかし、それはわかっているけれども、やりたくないと言う。

結局、スバルくんは中1の終わりに勉強についていけなくなり、公立中学に転校した。そして、高校生になっても冒頭のように、お母さんから「困った!」の電話がかかってくる。短絡的な母親と努力を嫌う子供。この負のスパイラルから抜け出すことができない。

「地震が来たら、勉強しなくていい」

あれから数年がたち、再び「ユーチューバーになりたい」という子に出会った。ユーチューバーに憧れることが悪いことだとは思っていない。でも「なぜなりたいの?」と聞くと、「勉強したくないから」とさらりと言う。

マサキくんは東京ベイエリアに住む裕福な家庭の子だ。東日本大震災の時に自分の自宅の周りが液状化した様子を見ていたにもかかわらず、「また地震が来ないかなぁ~」と平然とした顔でつぶやく。「地震が来たら、学校に行かなくていいし、勉強もしなくていいから」と本気で思っているのだ。

マサキくんは私立小学校に通っていたが、小学3年生の時に成績が悪くて、このままでは進級できないかもしれないと家庭教師をつけることになった。そのため、当初は内部進学のための勉強を行っていたが、いかんせん勉強が嫌いで、努力をしない。6年生の11月にやっぱり進級できないかもしれないということで、急きょ中学受験に切り替えることになった。

幸い、中学受験は成功したが、入学後も努力をせず、毎年進級できるかどうか成績会議をかけられる問題児だった。中学受験後も、何か困ったことがあると思い出したように私を頼ってくるマサキくんのお母さんは、前出のスバルくんのお母さんと重なる。