伝説の一期生は廃れゆく炭鉱町の未来を渾身の力で切り開いた。そしていま、「第二の復興」に向けて後輩たちが立ち上がる。
福島県いわき市の山あいにある常磐音楽舞踊学院は、知る人ぞ知るフラガールのレッスン場だ。映画『フラガール』のモデルとして知られる常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)の歴代ダンシングチームは、ここで厳しい指導を受けたのち華やかな舞台に立ってきた。
あの地震から6週間後の4月22日、不安な面持ちのフラガールたちが学院のレッスン場に集合した。福島県沿岸南部に位置するいわき市は地震と大津波に痛めつけられたうえ、原発事故の不安にもさらされていた。一部設備が損壊したスパリゾートハワイアンズも、再開の目処が立たない状態だった(のちに10月を目処に再開すると発表)。
だが、ハワイアンズの運営会社、常磐興産はこう考えた。「うちは地元とともに歩んできた施設。いまこそ地元の人たちを元気づけ、全国に福島をPRしなくては」(同社広報)。そして企画されたのが、フラガールによる「全国きずなキャラバン」だった。
最初にいわき市内や県内の避難所を慰問し、その後、首都圏の百貨店や西日本などでPRを兼ねたショーを開催する計画だ。
といっても、現代のフラガールには地方巡業の経験はない。整備されたステージではみごとなショーを展開するが、設備も十分ではなく観客が集まるかもわからない中で、いつもどおりの力を発揮できるかは未知数だ。29人のフラガールたちが一様に硬い表情をしているのはそのせいだった。
「レッスンを始める前に、私から話があります」
静まり返ったレッスン場に、学院最高顧問・カレイナニ早川さんの凛とした声が響いた。
「今度の震災では、あなた方やお身内の方々が大変な目にあっていると聞いています。しかし、いつも言っているとおり、あなた方はみなさんに希望と夢と美を売る人間です。プロとして、見ている方に生きる喜びや元気を与えなければなりません。わかりますね? 舞台の上では、どんなに辛くても笑顔を忘れないこと。そして熱く、美しく、希望を持って、自分の思いをみなさんに伝えてください」
早川さんは一期生以来すべてのフラガールを指導してきた学院の精神的支柱である。メーンの構成・演出の座を後進に譲ったあとも、毎月1、2回はレッスン場に赴き若いフラガールたちに薫陶を授ける。
その早川さんにとっても、今回だけは特別だった。襟を正し、開業時の苦難を思い起こすようにこう続けた。
「45年前、あなた方の大先輩は『一山一家』を合言葉に、炭鉱の人たちと助け合いながら、生まれたての常磐ハワイアンセンターを守りたててきました。しかし今回の震災で私たちが助け合うのは、炭鉱人ではなく、すべての日本人です。『一国一家』というくらいの強い気持ちで、力を合わせてやっていきましょう!」