ストレスを言い訳に卑劣な犯罪に手を染める人がいる。ある50代の独身男性は、女性の着衣をカッターナイフで切りつける常習犯で、誤って臀部を傷つけたことで逮捕された。この男の裁判を傍聴した北尾トロさんは「ストレス解消は言い訳にならないが、再犯を防ぐにはストレスを別の方法で発散するしかない」という――。

ビジネスマンとして積み上げた地位や収入、信用が水の泡

窃盗や性犯罪、傷害事件、薬物関係の裁判で、動機を尋ねられた会社勤めの被告人が、仕事のストレスを理由に挙げるケースは多い。

・残業続きで疲労が溜まって正常な判断ができなくなっていた
・上司や部下との人間関係に悩んでいた
・異動で慣れない仕事を任されプレッシャーに押しつぶされた

※写真はイメージです(写真=iStock.com/iryouchin)

などである。

酔ってクダを巻く程度ならまだしも、ビジネスマンとして積み上げてきた地位や収入、世間の信用が水の泡になるリスクを冒してまでやることとは思えない。だが、損得勘定で割り切れないから事件になるのだ。

ストレス解消法なら、カラオケで歌ったり、飲み屋へ行ったり、友人とバカ話したり、旅行に出かけるといった方法もありそうなものだ。

しかし考えてみてほしい。一人カラオケは楽しいか? いや楽しい面もあるだろうけど、それは練習の成果を披露する場(宴会や仲間と出かけるカラオケ)があればこそではないだろうか。ひとり酒をじっくり楽しむには、心とサイフの余裕が必要だ。友人がいなかったらバカ話の相手はいない。旅行も成立しにくい。それらを凌駕するような長年続く趣味があれば、そもそもそこまでストレスは溜まってない。

不満や疲労のはけ口がない、孤独で暗い心情のせいで目先の快楽を追うことになり、どうなってもいいというヤケクソな気持ちを生み、結果的に第三者の目から見ると割に合わない犯罪行為に走るのではないだろうか。

裁判傍聴でいくら事情を聞いても、いまいち納得できない

裁判傍聴を始めた2001年当時から今日まで、これらの事件は後を絶たず、“ストレスを言い訳にビジネスマンが引き起こす犯罪”は、もはやひとつのジャンルとして定着していると筆者は思っている。

特徴は、いくら事情を聞いても、いまいち納得できないことだ。

裁判傍聴するとき、筆者は被告人の立場で、自分だったらどうしたかと考えるのが常。時と場合によっては、自分も同じ犯罪行為をしたかもしれないと思うことさえある。しかし、犯罪によるストレス解消にはそれがなく、疑問だらけのまま判決を聞くことになりがちだ。