大麻やLSDの使用歴が30年の50代男性会社員。長年、常習・乱用していたこと判明したが、勤務先の上司はクビを言い渡さないどころか、保釈金を負担し、雇用も続けると裁判で証言した。その様子を傍聴したライターの北尾トロ氏は「被告は取り調べでも裁判でも、誰から購入したかなどについて黙秘を貫きました。2年6カ月の有罪判決でしたが、なぜか人としての信頼度が高く感じられた」という――。
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「即日判決」の裁判には思いがけないドラマがある

裁判所には正月明けの1月前半、年度切り替えの3月末から4月前半、8月のお盆前後など、年に何度か公判数が激減する時期がある。なかでも独特の雰囲気なのは年末。大きな事件はわずかになり、窃盗などの小事件がずらりと並ぶ。不法滞在や薬物などで捕まった外国人の裁判も多い。全面的に罪を認めたものについては即日判決(初公判の日に一気に結審し、判決まで行うこと)になることもめずらしくない。

他の事情もあるのだろうが、僕にはこれがクリスマスや正月を娑婆で迎えるための、裁判所なりの配慮に思える。執行猶予付の判決になることが確実な被告人に、年明けまで持ち越さず判決を下せば、拘置所で寂しいクリスマスや正月を迎えなくて済むからだ。

裁判所にとっても、新たな年を迎える前に一定数の判決を下すのは、意味のあることだろう。僕は、被告人にとっても裁判所にとってもハッピーといえる即日判決を聞くのが好きだ。

大麻35mg、LSD1.8mlを持っていた50代の会社員

昨年12月某日に傍聴した大麻取締法違反等の裁判も、初犯+罪を認める+復帰後の仕事を確保、の要素を満たし、執行猶予付き判決が濃厚。即日判決もありそうだと期待した。保釈中の被告人は50代の男性だ。どういう経緯で捕まったのかと身を乗り出すと、これが大胆なのである。

被告人は密売人から購入した大麻を2種類の小物入れにいれ、社用車の助手席ポケットに放り込んでいたのだという。その量、35グラム超。紙巻きタバコ1本分の葉の量は0.7グラム程度とされるので、単純計算で50本分以上になる。しかも、他に液体のLSD1.8ミリリットルも所持していた。LSDは微量で効くので、これもまた相当の量である。検察によれば、20~30回分にあたるそうだ。

発覚したのは、警ら中の警官が、駐車場で被告人が車の中で着替えをしているのを見て不審に思い職質したため。小物入れに気づいた警官が中身を確認したところ、大麻だったというわけだ。被告人は最初、ハーブだと言ってごまかそうとしたようだが、すぐに大麻だと認めている。科捜研で鑑定し、本物と断定された。