40代前半のタクシー運転手は、女性の乗客が車内に忘れたバッグから現金を盗んだ。金額は14万円。財布には15万円が入っていたが、1万円だけ残したという。なぜそんなことをしたのか。運転手は裁判で「勘違いだと考えて、バレなければラッキーだと思った」と話した。こんなトホホな犯行の経緯とは――。

女性乗客の財布から14万円をネコババしたタクシー運転手

被告人は元タクシー運転手(逮捕により解雇)、罪状は業務上横領。となれば、犯した罪の内容は察しがつくだろう。女性の乗客が車内に忘れたバッグから現金を盗んだのだ。その額、14万円。大金だから、忘れたほうは慌てて探すに決まっている。タクシー会社に問い合わせされたら、よほどうまく立ち回らないかぎり発覚する確率が高いことはわかりそうなものだ。

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それでも盗ったとなれば、そこには理由がなければならない。それはなんだろう。被告人は40代前半、前科・前歴はない。傍聴席最前列には、妻らしき女性が情状証人として証言台に立つべく控えている。いったい何を話すのだろう。事件の規模は小さいが、興味を惹かれるところは少なくなかった。

「(タクシー会社では)遺失物があった際は運転手が保管・管理することになっていますが、被告人は客である○○さんが忘れたリュックサックの中から財布を取り出し、14万円を抜き取って着服。1万円だけサイフに残して戻したリュックを会社に提出しました。○○さんがタクシー会社に連絡し、リュックを取りに行って中を確認したところ、金がなくなっていることが判明。警察に届けたことから、被告人の犯行ということがわかりました」

1万円だけサイフに残した意図はどこにあるのか

決め手となったのはドライブレコーダーの映像や走行記録。○○さんを降ろしたあと、被告人が別の場所で路上に車を停めたことを追求され、最初は否定したものの、自白することになった。当日、○○さんはホストクラブで飲食した後で、酔っていたことや機嫌が悪かったこともあり、車内に忘れた財布の件でタクシー会社に電話したときには運転手(被告人)から強制わいせつの被害を受けた、とも訴えたらしい。実際にはその事実はなかったのだが、後述するように、女性がこの訴えをしたことが結果的に運転手の犯行の呼び水となった。

被告人は冒頭陳述で検察官が読み上げた犯行の経緯を認め、何を言われても逆らわない構え。弁護人の顔つきを見ても執行猶予付き判決狙いなのは明らかで、実際、実刑になることは考えにくい。この事件の見どころは、バレる確率の高い犯罪をなぜ行ったか、1万円だけサイフに残した意図はどこにあるのか、夫の犯行を知った妻が法廷で何を証言するかである。