「借金の話をしたら、家族がバラバラになりそうで怖かった」
生活費が足りなくなり、妻に内緒で借金をするようになった。確かに臨時収入を狙ってパチンコもしたが、ギャンブル資金欲しさからではなかったようだ。だからこそ、妻は被告人のギャンブル癖を疑う検察に、楽観的な証言をしたのである。
悪循環が始まる。借金はたちまち膨らみ、返済に追われるようになった。月の返済額は約6万円だという。利子があるから、いくらも減っていかない。給料だけではまかなえなくなったのに、ぜいたくな暮らしを続けていた。不安を抱いた妻がパートを始めてからは勤務態度を改め、遺産相続以前の給料を稼ぐようになったが、今回の事件を起こすまで、借金のことは隠し通していた。なぜなのか?
「自分の見栄から、妻に『大丈夫なの?』と聞かれても『平気だ、平気だ』と言っていました。借金の話をしたら、家族がバラバラになりそうで怖かったのです。留置場で、これからはちゃんとやっていきたいと反省し、許してもらえるとは思いませんでしたが、妻にすべてを話しました」
幸運なことに、離婚したいとは言われなかった。保釈中のいまは、妻の収入+子どもの学資保険を切り崩して生活費を賄いながら仕事先を探す日々だ。
遺産バブルは終わり、前科が残った。でも家庭の崩壊は避けられた
せっかく得た親の遺産。あとから思えば、家のローン返済を早めたり、将来に備えて貯蓄したり、有効な使い途はいくらでもあったはずだ。被告人だってそんなことはわかっていた。4年間、少々ぜいたくな暮らしをさせてもらい、それが終われば、また地道にやっていこうと思いついた。
誤算だったのは、“遺産相続バブル”で上がった生活水準をもとに戻す難しさだ。見栄っ張りの被告人は、家族にさえ虚勢を張り、こっそり借金をするようになる。それが次第に膨れ上がり、ストレス解消や臨時収入狙いでパチンコにはまり、挙げ句の果てに、現金14万円を盗んで御用となったのが今回の事件だ。
バブルは終わり、借金と前科が残った。でも、家庭の崩壊だけは避けられた。カード決済はやめ、現金でしか買い物しないようになった。今後は妻が家計を管理することにもなった。パチンコもやめた。
立ち直るための条件が整った、被告人の再起に期待したい。