なぜ、女性乗客の財布の15万から14万を抜いたのか

裁判長「400万円の借金がありながら、5カ月間に138万円もつぎ込んでいる。そのことをどう思うかと質問しているのですよ」

妻「はい。びっくりしますけど、そんなに負けているという認識はありませんでした」

裁判長「今後、パチンコとの関わりについて、どう考えますか」

監督責任のある妻が借金がかさむ要因となったギャンブル癖を楽観視したままでは、執行猶予付き判決を下しにくいということなのか……。大丈夫と答えてはいけない雰囲気にようやく気がついたのか、妻は答えを修正した。

「夫と話し合って、どういうお金の使い方をしているのか把握するように努めます」

被告人質問は事件の経緯を確認することから始まった。

動機は単純で、被告人は酒に酔っていた女性乗客○○さんと車内で楽しく会話をし、酔客相手に問題なく仕事をこなしたと思っていたのに、その女性客が車に忘れものをしたという連絡を会社に入れた際、なんと自分から強制わいせつされたと言った、と知らされ腹を立てたことだという。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/MosayMay)

「私から卑猥なことを言われたと苦情を受けたと聞き、頭にきて、(めぼしいものがあったら)盗ってしまおうと思いました。もちろん、お金が欲しかったのも事実ですが、“なんだよ!”という気持ちが強かったです」

1万円だけサイフに戻したのは、全部盗るのは申し訳なかったのと、もしかして相手が自分の勘違いだと考えてバレなければラッキーだと思ったそうだ。15万円入ったサイフから14万円抜かれて気づかないわけないんだがなぁ。

母の遺産2000万円が入り、堅実だった生活が狂ってしまった

つぎに、検察がローンや借金返済事情を質問していく。住宅ローンの返済額は月に10万円だから家賃並み。タクシー運転手の給料は手取りで30万円代後半だが、妻のパート収入を合わせれば、月収はざっと45万円。そこまで苦しい数字ではない。やはりパチンコなのかと疑ったら、思わぬことを被告人は告白しだした。数年前、母の遺産が入ったことで、堅実だった生活が狂ったというのである。

「1年に500万ずつ、4年間で2000万円ほど入ってきました。タクシーの仕事は続けていましたが、その間は怠けがちになりました。生活水準が上がってしまい……そして遺産が尽ききてからも、生活水準を落とせないまま今日まできてしまいました」

年間500万円の不労所得があれば暮らし向きは楽になる。遺産の受け取りが2年前に終わるのはわかっていたが、その間の幸せそうな家族の姿を見ていたため、生活水準を落とせなかったという。